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第17話 てやんでぇ、表に出な!

私達は今ひいらぎの捕らえられている小屋の前にいる。



「安二君、ひいらぎはここに捕まってるのね。」


「ああ、そうさ、ここで変な奴らに捕まってるんだ。」


あるては鼻をくんくんとさせて、妖気を探って見る。


「むぅぅ…、ひいらぎの物と後3つ。1つはエナジードレインでひいらぎから吸い取ってる。まい子だろう。」




「安二君、あるて、さぁ、助けに行くわよっ!」


私達はいざいざ小屋に入るとそこにはひいらぎが壁に手足を縛られていた。


「あるて様!まいまい!おさーん!やっと来てくれたにゃぁぁぁぁ…」


その恰好は裸に浴衣を羽織らされた上で縛られていて、胸はひいらぎが平たかっ為にキッチリと隠れていて見えなかったが、浴衣から覗かせている太腿は奥を見られまいとして必死にもじもじとしていた。


「ほほぅ、ひいらぎ良い格好だな?安二とそういう事してて油断して捕まったと言う訳か。」


「あるて様違う~!これはこの変態のフード男が!」


「おいら達が襲われた時にはちゃんと着ていたんだ!」


襲われた時には…って事は、

………襲われる前には…してたのね。


「その通りですよ狐のお嬢さん、この猫のお嬢さんの魅力を最大限に引き出すには、見えるか見えないかギリギリのラインを確保する事が必要なので、私が脱がせて羽織らせました。はっはっはっ」


「きもい…」


私達はフードの男の説明に絶句して言葉を失った。


「ほらDELI、アンタの趣味にみんなドン引きじゃないか!このロリコン!」


マントを羽織った黒髪の少女nyaはDELIの鼻に肘を強烈に打ち付けると、DELIの鼻からはどくどくと鼻血が溢れ出た。

DELIはそのままひいらぎの横に行くと、ナイフでひいらぎの拘束をざくざくと切り外した。


「ち、ちょっと、DELI!お前何してんだよっ!折角東洋の妖狐の仲間を捕らえていたのに!」


「nya様、猫のお嬢さんは仲間が来たら自分から拘束を解くつもりだったのです。つまりワザと捕まっていたのですよ。ならこちらから拘束を解いても同じ事…。ほら猫のお嬢さん、仲間の所へお行きなさい。」


ひいらぎはチラッと一瞬だけDELIをみた。


「鼻血出しながら言ってもカッコよく無いわよ。」


DELIに吐き捨てるように言うと、浴衣の帯を直しながらひいらぎは私たちの所に来た。


奴らの目的はあるてだと見越してひいらぎはワザと捕まったが、このロリコンのフードはそれを知った上で敢えてそれに乗っかっていたという事か。


「そうだな。つまりはこのフード男、ひいらぎに対してどこまで捕まっているフリが出来るか見たくてワザとイタズラしてたんだ。」


「そんな事を狙って出来るとなればこのフードの男、相当の実力者という事になるわね。」


「ああ、後は相当の変態だな。」


ひいらぎは私たちの所に来るなり安二君に抱き着くと、安二君も当たり前の様にそれに応える。


「ひいらぎ、無事で良かった…」


安二君はひいらぎを抱き締めると心から安堵していた。


「さて、こちらの手の内にあった猫のお嬢さんは恋人との感動の再開を果たし、貴女にも枷は無くなりましたが、そろそろ反撃などして来られますかな?東洋の妖狐。」


「ひいらぎのついでにまい子も返して貰えるとありがたいのだけどな。」


「そういう訳にも行かないのですよ。こちらにも事情というものがありましてね。」


「私達にはその事情とやらは関係ないのだがな。」


あるてがその言葉を言った時、黒髪のマントの女nyaが語気を強める。


「関係ないだと?ふざけるな、大アリだ東洋の妖狐め!アタシはドラキュラの娘nya!父の敵を打つ為にお前を追ってこの島国までやって来たんだ!」


ドラキュラ…それは私達に取っての最も因縁の深い相手である。

私とハムレットを引き離し、私は夢魔に、ハムレットは人狼にされた。

人狼によって抹茶さんは250年間恋人レナさんと引き離された。

あるてはその元凶を打ち砕いた後も皆にかけられた呪いに翻弄され続けていた…。


「確かに父は非道を尽くしていたのかもしれないが…でもアタシにとってはだだ一人の父だった!東洋の妖狐、私利私欲のために突然現れて私の父を惨殺した父の仇!今ここでその命を頂くっ!」


nyaはそう言うや否や、マントで身体を覆い隠すと、その姿を無数の大コウモリへと変えて突っ込んで来る


「DELIいくよっ!」


「やれやれ、nya様はセッカチさんだ、仕方ありませんね。」


DELIは掌を前に出し呪文を唱え、すると黒い霧が吹きだして辺りを包み込むと、その霧は私たちの眼を奪い、視界ゼロの空間を作り出した。


バシッバシッ…


「うっ…くっ!うにゃーっ、なんでこんな暗闇で正確に攻撃してこれるのっ!?」


「ひいらぎ、超音波だ、大コウモリ達は超音波を出してこちらの位置を把握して攻撃してるんだ。」


「こちらは相手が見えないのに一方的に攻撃出来るなんてずるいーっ!」


暗闇の中で正確に攻撃を仕掛けてくる大コウモリの群れに、私達はただ防戦一方になってしまっていた。

しかし、一方的な攻撃ではあったが、攻撃力は低い。ダメージも低く、致命打も無いのが救いではある。


「ダメージは無くともこれでは埒があかんな。」


「あるて様、まいまい、こっち!小屋の外には霧の効力が及ばないみたい。しっかり見えるわ!」


少し離れた位置からひいらぎの声が聞こえる。

私達はひいらぎの声を頼りにその方向へと向かうと、何とか小屋の入り口へとたどり着いた。

小屋の外に出ると黒い霧は無く、辺りを見回せる様になる。


私達が全員揃った後、小屋の中からDELIとnyaがゆっくりと出て来た。



「はっはっはっ、折角nya様が亡きドラキュラ様の仇討ちを為さろうとしているのに、それをこんな狭い小屋の中でなどではいささか興が削がれると言う物…なので貴女方を小屋の外に導かせて頂きました。」


まどろっこしい…、それなら最初からそう言えばいいのに。


「ニホンの文化で決闘をする時に「てやんでぇ、表に出な!」と言うのがあるそうですが、生憎私どもはこの国の文化には不慣れ…存じ上げておりませんので。はっはっはっ」


それを聞いたあるては、表情表情を強張らせてnyaとDELIにきつい視線を向け、


「むぅぅ、それはこの国で命をかけた決闘をする時に行われる、双方の決意と信念を神前で誓う大切な儀式だ。それを知らずとは言え行わないとは大変礼を欠いた行為、恥を知る事だな。」


と、二人に言い放つ!


あるて…嘘は辞めよう。私もこの2人と同じ国の人間だけど、そんな文化無い事だけは分かるわ…。


「そうでしたか、そこまで大切な儀式だったとは…非礼を詫びよう。」


信じちゃってるし…


「では改めて…てやんでぇ、表に出な!」


DELIとnyaがハモった。

ノリがいいのか素なのか…

いささか仇討ちの興が削がれるわ…。




DELIは握ったままの(てのひら)を前に押し出すと、ゆっくり開きながら呪文を唱え、開いた掌の指を上にクンと上げた。


「はっはっはっ…私は非力故、こんな闘い方しか出来ないものでしてねぇ、出でよ、ゴーレム!」


が…も…んも…がんもがんも…がもんがも…がんも…


地面が轟く!

辺りの地面が盛り上がり、多数の土塊が現れる。

その土塊は人型に姿を変えると私達に襲い掛かって来た。


「ほう、無形に命を与えるとな…DELI、お主はシャーマンか」


その攻撃は動きも早くパワーもあるが、ゴーレムは所詮土塊、有効打を入れれば簡単に崩れるのである。

しかし、土塊は崩しても崩してもまた直ぐに復活し襲って来るのだ。

そして更に新しいゴーレムも誕生しているからたちが悪いのである。


「あるて様、キリがないにゃあっ!」


「確かにこんな泥人形相手にしていても意味がない。操っている本体、あのロリコンをなんとかしなければ…」


しかし、ゴーレムの攻撃は激しく、なかなか前に進めなかった。

初めは土塊の攻撃を避けて隙を突き、的確に攻撃を当てていた私達だったが、次第に土塊の攻撃が当たり始めて来ていた。


「あるて様、奴らの動きが早くなって来ているわ!」


「それもあるが、それだけじゃない、ゴーレムにスペースを殺されて、私達の動きが鈍くなって来ているんだ。」


確かにこのゴーレム達、ただの土塊の癖に位置取りがいやらしく、死角からの攻撃をしてきてそれを避けると避けた方に別のゴーレムからの攻撃を仕掛けてくるのだ。


「もちろん、普通ならこんなゴーレムなんぞに遅れを取らないのだけどな…。数が多すぎるのもあるが、ゴーレムどもは恐らくnyaの超音波で操つられている。それで正確無比の動きと攻撃の精度を上げているんだ。奴らの作戦はダメージを与える事では無くてこちらのペースを乱す事、くそっ、こいつら闘いなれている。物凄くやりにくいっ!」 


このまま行けば確実にこちらはペースを失う。長期戦になればなるほどこちらが不利になるのは必至。

まずはこのゴーレム達をどうにかしないと話にならないけど、でもそれが出来ないから今の状況があるのだ…。


「むぅぅ…まいまいならどうにか出来るかも知れないぞ?」


「えっ?私が?」


「シャーマンがゴーレムに生を与える為に呪力を媒体にして動かしているなら、エナジードレインでそれを吸い取ってしまえばゴーレムは土に戻るはず…」


「戻る…はず?」


「むぅぅ…仮説だからな。私は西洋の呪術は良く分からないんだ…。」


まったく…

でも今のままでは埒あかないのでやってみる価値はある。

まずは私がエナジードレインでゴーレムを無効化する。

そして次のゴーレムを呼び出される前にひいらぎが飛び込み、シャーマンに呪文を唱えさせない様に素早い動きで牽制する。

最後にあるてがとどめを刺して沈黙させる。


「って…あるての計画がざっくり大雑把すぎるんだけど、上手く行くの?」


「まぁ何とかなるだろう。」


本当にまったく…

ひいらぎに目配せすると、コクリと頷いた。作戦を理解しようだ。

私は早速、エナジードレインの範囲をゴーレム全体に定め、吸い上げ始めた。


「ゴーレムの動きが鈍くなって来た!まいまい、いけそうだ」


どうやらあるての仮説がドンピシャだった様で、徐々にゴーレム群は崩れて行く。


「くっ私のゴーレムがっ!」


DELIは再びゴーレムを呼び出そうと、呪文詠唱をし始めた。


「ひいらぎ!」


私はひいらぎに合図を送ると、その瞬間ひいらぎはDELIに向かって飛び出した。


「させないにゃあっ!」


ひいらぎは露骨に正面から体当たりとも言えるくらいの正面攻撃を仕掛けるとDELIはたまらず体勢を崩す。

背後に回ったひいらぎはそのまま素早く反転しそまのの攻撃、DELIにヒットアンドアウェイを繰り返した。


「くっ…猫のお嬢さん、素早すぎますね!これでは呪文詠唱が…」


どれだけ優れたシャーマンであっても呪文詠唱ができなければただの人、弾の装填されない大砲は打つことが出来ないのだ。

その隙をつきあるてはDELIに向かい飛び出す。


「そうはさせないよっ!DELI!アンタなにやってんのさぁーっ!」


バサバサバサバサバサ…

すぐさま無数の大コウモリがひいらぎに纏わりつき、その動きを抑制する。


「今の内に早くしなっ」


「すみませんnya様」


その一瞬でDELIは呪文を唱える。


「そうはさせない、とどめっ!」


あるてがその右手に妖力を放出し、鋭さを増した手刀を作り出すと、DELIの身体を貫く為に振りかざした。


「もはやゴーレム召喚したとしてもお前を守るのには間に合わんぞ!覚悟っ!」


ゾムっ!

肉が貫かれる音が響き渡る。あるても確かな感触を味わっていた。


「シャーマンをやったか…、吸血鬼の小娘よ、あとはお前だけだ。お前の実力では私には敵わない、降伏するのだな。」


「それはどうですかねぇ?東洋の妖狐…」


「なにっ!?」


その時DELIはにやりと笑いながら自らの左胸に深々と刺さった手刀を強引に引き抜き、あるてを力任せにほおり投げた。


「何とか間に合ったようですな、はっはっはっ。」


「DELI…何故生きている…!?」





「かつてドラキュラ様はスピードと攻撃力に優れた人狼の研究をしていました。それとは別に不死を生み出す研究も進めていたのです。その結果生まれたのが圧倒的なパワーを持つ不死身の人造人間なのですが…」


DELIの身体が徐々に変化している。

鶏ガラみたいだったその痩せた身体がどんどん肉付きが良くなり大きくなりはじめた。


「人狼はその本人の人格が制御できず、人造人間は呪術で無形に生を与えたために自我が保てず、共に暴走を繰り返して来たのですが…」


そして、その変化は2メートルはゆうに超える剛腕の巨人へと変わっていった。


「私自身を媒体に、私自身にゴーレムとして人造人間を召喚すれば…その力は制御できるのです。さあ、人造人間の力をとくと味わうといい!」


DELIはあるてに向かって剛腕からの鉄拳を振り下ろした。

があるてはそれをあっさりと避ける。


「ふん、パワーがあってもそんな鈍重ではな。当たらなければそんなパンチ、どうという事は無い。」


「それはどうですかねぇ」


DELIはあるての避けた先に回り込み、死角から脇腹に一撃を食らわせ、そのまま鳩尾に肘打ち、そして顎に右フックを決める。


「うっ!」


あるてはたまらずよろけて片膝ついた。



「これはほんの挨拶です。立ってください。大してダメージも無いのでしょう?」


あるてはくっくっくっと笑いながらすくっと立ち上がり、ぱんぱんと土埃を払っている


「なんだ、バレていたのか。もっと手の内を見せてくれるかと思ったのにな。」


「はっはっはっ、出し惜しみなんて私はしないですよ?どうせ貴女はここで死ぬのですから。」


「どうかな?私には其方がまだ奥の手を隠している様に見えるが?」


「ほぅ、お見通しですか、そこまで言うなら見せてあげましょう。時間稼ぎもたっぷり出来ましたからね。」







小屋ではまい子が手に怪しげな玉を持ち、密かにエナジードレインをしていた。

DELIは溢れんばかりに赤黒く輝いている玉をまい子たんから受け取ると


「うまい具合にエナジーが溜まっている。これだけあれば大丈夫でしょう。」


と、満足げに笑みを浮かべ、あるてのあけた左胸の風穴に埋め込んだ。

でもまい子たんはこんな場所でエナジードレインって一体何をどうやって…。


「はっはっはっ、夢魔のお嬢さん、やり方は色々あるものなのですよ。


「そうか、村人ね?」


「さすが、同じエナジードレイン使いですね、気付きましたか。」


「まいまい、どういう事だ?」


「つまりはこう言う事よ。」


おそらくまい子たんのエナジードレインはnyaの呪力の共有、つまりnyaが血を吸った相手からしかエナジードレインは出来無い。


nyaは、初めにまい子たんの血を吸った。

myaの呪力を与えられたまい子たんが村人からエナジードレインをし、村人にnyaの呪力を与える。

そしてnyaの呪力で村人を操り襲わせて拡散させてから、nyaの呪力の支配下にある全ての村人からエナジードレインを行う


「と、言う訳よ。」


「むぅぅ…つまり、ひいらぎを囮に私たちをここにおびき寄せたのは私が目的と見せかけてその実…」


「そうです東洋の妖狐、村人からエナジーを集める為に貴女方が邪魔だったので村から引き離したのですよ。全ては貴女の言う「奥の手」の為に計画された事…良いでしょう、見せてあげます奥の手を!」


怪しげな玉から禍々しい力が溢れ出てDELIの全身を覆い始めた。


「nya様の血と呪力、そしてまい子たんの集めた大量のエナジー、更に私に宿した魂の無い人造人間と私の術が組み合わされば…」


「死者蘇生!」


DELIを覆う禍々しい力はDELIの身体に吸い込まれ、全身の皮膚を青黒く変え、そして青黒い全身から邪気と怨念が噴き出す。

そしてその姿は…


「ドラキュラ!」


私はあるてと同時に叫んだ。




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