第16話 私達は仔猫ちゃんの救出に向かっています♪
ひいらぎと安二のところへ怪しげな奴らが襲って来た。
ひいらぎは安二を逃しあるてのもとへと向かわせる。
私とあるてと安ニ君は、捕らえられたひいらぎを助ける為に神社の脇の細道を奥へ向っている。
「なぁお狐様、助けに行くんならもっと急いだ方が良いんじゃ無いのか?」
と、心配顔の安ニ君がしきりにせかしている。
確かに助けに行くと言うわりには余りにものんびりしすぎている。
これではまるて散歩である。
「心配するな、ひいらぎは無事だよ。奴らも私が目的なら私達が行くまではひいらぎに手を出しはしないしな。まぁのんびり行って焦らしてやる位が丁度いいさ。その間に確認したい事もあるしな。」
ひいらぎを捕らえている奴らの中にはヘル松さんの探している妹のまい子たんの姿もあった。
ヘル松さんは一緒に行くと言っていたが長治さんと一緒に残ってもらった。
「相手は怪しげな西欧の呪術を使う。普通の人間にはどうする事も出来ない。足手まといになるだけだからな。」
「あるて、安ニ君も大丈夫なの?残って貰った方が良かったんじゃない?」
あるてにつなぎを付けた時点で安ニ君の役目は終わったのである。
行けば必ず闘いになる。そうなれば普通の人間である安ニ君も危険が伴うのは間違い無いだろう。
「それは違うな、残念だが…安ニはもう普通の人間では無いんだよ。」
「どういう事?」
「ひいらぎは安ニに双魂蘇呪縛の契を使ったのだろう?それによって安ニはひいらぎの妖力が流れ込み、流れ続ける限り安ニは死ねない身体になったんだ。」
「え?安ニ君そうなの?」
安ニ君はコクリと頷く。
こころなしか赤くなってる様に見える。
「普通なら双魂蘇呪縛の契を使えばひいらぎは精根尽きて動けなくなるのだが、ひいらぎには猫玉があるからな。あの玉から力が流れ込んで逆にぴんぴんしてる筈だ。その怪しげな奴らからすれば誤算だったと言う訳だ。」
「ああ、お狐様の言う通り、動けないという感じでは無かったと思うよ。」
でもそれなら何故ひいらぎは闘える状態なのに捕まってしまったのだろう?
安二君を庇いながら3対1で応戦してたみたいだけど、安二君が死なないのならもう少し何とかなったのかも知れないし。
「ひいらぎはワザと捕まったんだ。」
「あるて、そこまで言い切れるのは何故?」
「それは、安二の持っている猫玉だな。」
安二は猫玉を取り出すとあるてに見せた。
「お狐様、この玉でなんでひいらぎがワザと捕まったって分かるんだ?」
「それは、その猫玉はひいらぎ以外を受け付けなくて私もまいまいも触る事さえ出来ないんだ。それを安二が持っている、つまり双魂蘇呪縛の契を使った事により、安二がひいらぎの一部になったと言う事になる。猫玉は膨大な力持っているからな、そこから妖力がひいらぎに流れるから妖力も有り余っているという事になる。その状態のひいらぎが何故わざと捕まったかだが…多分ひいらぎ見立てでかなりの力を持った奴が怪しげな奴らの中にいたのだろう。たとえ死なないと分かっていても安二を怪我負わせたくないし、庇いながら3対1で戦うには分が悪い。それに目的がひいらぎではなくて私という事にどこかで気付いたのだろう。私目的の人質なら私が行くまで向こうも殺しはしない筈…。それならとそれを逆手に取ってワザと捕まり安ニを逃す、それを私に知らせる為に安二に猫玉持たせて私に見せさせたと言う訳だ。」
「あるて…説明長いわね。」
「ふっふっふっ、原稿用紙1枚分だ。どうだ安ニ、分かったか?」
「長すぎて分からねぇよ…」
安ニ君はさっきからひいらぎの一部とか、大切な存在とか言われ続け、顔は真っ赤にして後ろでモジモジしていた。
その安ニ君に対してあるては優しく、そして真剣な眼を向けた。
「ひいらぎが安ニに対して双魂蘇呪縛の契を使った。それだけひいらぎは真剣に安ニの事を大切に思ってると言う事だ。分かるな。」
「分かるさ。」
「ひいらぎは私にとって大切な仲間であり家族だ。中途半端な奴にくれてやるつもりは毛頭ない。だから今一度安ニに問う。安ニはひいらぎに対して真剣な覚悟はあるか?」
「ある。ひいらぎを命を賭けて護る。おいらはひいらぎと夫婦になる約束をしたんだ。」
安ニ君は即答した。その瞳は真っ直ぐ、力強かった。
「そうか、夫婦に…か。」
あるては安ニ君の首に腕を回し、にぃぃ…と笑いながらホールドして頭をくしゃくしゃと撫でた。
「わかった。安ニなら大丈夫だな、ひいらぎはお前に任せた。必ず幸せにしてやってくれ。」
「おう!」
「250年後で待ってるからな、二人の子をを楽しみにしてる。」
「お…おう。」
安ニ君は少し照れながら笑ってそれに応えた。
「さて、過去行きの目的も「全て」終わったし、ちゃっちゃとひいらぎを取り戻して未来に帰るか。」
「あるて、ひいらぎの事も過去行きの目的だったの?」
あるての目的は抹茶さんレナさんに会う事、私とハムレットを会わせる事…
「だな、それと…ひいらぎを必ず小とろと会わせる事だ。猫山さんと約束したし、私の願いでもある。」
小とろ君は猫神様と猫山さんの子供であり、ひいらぎに懐いている。
スカートめくりの大好きな少年だ。
「でもそれが何で安ニ君と関係あるの?」
「小とろは…ひいらぎと安ニの子供なんだよ。」
「えっ!それじゃ猫山さんが安ニ君で、ひいらぎは…!?まさか!?」
「そうだ、猫神様だ。」
何故ひいらぎだけが猫神様の猫玉や結界を自由に操れるのか、猫山さんも何かの力で妖となった元人間だった。それは双魂蘇呪縛の契を使った安ニ君と言う事…。
そう言う事なら全て辻褄が合うけど…。
「でもあるて、何時からそれに気付いていたの?」
「ああ、出発前に猫神様の儀式があったじゃないか。あの時だな。」
「そんな前から?ってほぼ最初から分かってたみたいじゃない。」
でもあの時、あるては猫神様は極限まで練り込まれて実体化した妖力を本体に纏っていて正体が分からなかったって言ってた。
「そうだな。そこから正体は分からなかったんだけど、あの時の猫神様はまいまい見てニヤニヤ笑っていたからな。その顔がイタズラした時のひいらぎと同じ仕草だったんだ。あの儀式自体が茶番だったのさ。」
あの時、猫神様待ってる間に正座してて、足が痺れてひいらぎにちょっかい出されて、ひいらぎがニヤニヤしてて…。
「うん、その顔を猫神様もしてた。」
猫神様には先見の目があり、過去行きも昔から決まってて、私もあるても同行する様にと…。
「予言で無くて体験だな。猫神様にとっては既に先に見てきた事だから確かに先見なのだろう。ある程度の猫神様の正体のアタリを付けてた所で出発前に猫山さんに直接聞いたからな。」
「まぁひいらぎと安ニの関係がおかしくなっても困るし何も言わなかったが、陰ながらそれとなく導いてたりしてたんだ。」
「え…と、あるて…つまりあの儀式は正座の苦手な私に足を痺れさせて、ひいらぎがちょっかいかけて来て悶絶しているのを、猫神様のひいらぎが見るためだけの儀式…?」
「え、まぁそう言う事になるな。」
沸々と内から何かがこみ上げてくるのが分かる。
その時の私の顔は正に鬼の形相だったのだろう。
「お狐様…まいまいさんが…ひいらぎ捕まえてる奴らより怖いよ…」
「ああ…、多分今のまいまいに勝てる奴はいなさそうだ……」
私達はひいらぎの捕らえられている小屋に辿り着く。
私はひいらぎを助ける前に小屋の前で心の叫びをぶち撒まけた
「ひぃいぃらぁぎぃぃぃ…、今から助けに行くから大人しく待ってなさい!今のひいらぎも未来のひいらぎも覚悟する事ねぇぇぇぇっ!」
さかのぼる事少し前、ここはボロ小屋の中。
そこには浴衣を羽織らされているだけの恰好で手足を壁に縛られて見動き取れないひいらぎと、フードの男、マントの女、ピンクのベビードール姿の女がいる。
「くっ誤算だったわ、あるて様を呼べばこんな奴ら簡単に何とかなると思っていたけど予想以上に手強い…」
「はっはっはっ、どうです?まい子たんのエナジードレインの味は…初めて味わう味、身体から力が抜けて動けないでしょう?」
(初めてじゃ無いわよっエナジードレインはまいまいので分かっていたから対処も出来ると思っていたのに…質が違う…ちまちまストローで吸うのではなくて強引にバキュームしているかのよう…)
(ドラキュラに血を吸われすぎて半魔化して夢魔になったまいまいのとは感じが違う…何故だろう…)
「nya様、収穫でしたね、東洋の妖弧をおびき寄せる為だけのエサがこうも上質のエナジーを持っているとは…」
「何が収穫だよ…DELI、ただのお前の趣味じゃないか、このロリコン野郎…」
「それは違いますよ、私はただ小柄で胸の小さな女の子が好きなだけで子供には興味ないですよ。この猫のお嬢さん、ざっと100歳は超えてはいますからな。はっはっはっ」
(胸が小さいって失礼ねっ!)
「DELI、例え100歳でもこの猫の見てくれはどう見ても12歳のガキじゃない!このロリコン!」
「nya様、ヤキモチですか?あぁそうですか、見てくれも実年齢も貴女と似たこの猫のお嬢さんに対抗意識燃やしてるのですな?貴女も一族の血で長命、私が幼き頃、共に遊んだ貴女は私が老いた今でもあの頃のまま…まるで少女のようで美しい。尤もあの当時も既にかなり歳は上でしたから今はもう100歳は越えている筈…」
「DELI色々ときめぇ!何に対抗意識燃やすんだよっ!後、歳の事言うんじゃねぇ!」
まい子たんと呼ばれたベビードルの女がひいらぎからエナジードレインで精気を吸い取っている。他からも吸い取っていたのだろう、大量の妖力で溢れかえっている。
どうやらボスはnyaと呼ばれたマントの女みたいだ。黒髪で膝の後ろまで届きそうな位のロングヘアで見てくれはひいらぎとそんなに変わらない様に見えるが実は100歳を超えているらしい。そこら辺もひいらぎと同じという事になる。能力はそんなに高そうには感じられなかった。
本当の実力者はこのロリコン…もとい、DELIと呼ばれたフードの男だ。鷲っ鼻でブラウンのくせ毛で、いかにも魔術師と言った感じの初老の男である。
(おさーん連れて逃げ出す位訳無かったけど、わざわざ計画的に私達を襲って来たから何か目的があるはず、狙いが私ならやり方がまどろっこしい…となるとあるて様ね…。)
(ここで逃げたら村に来られて被害が出る…。ロリコンだけ抑えれば何とかなると思って、敢えて虜の身となり、あるて様が来るの待って一気に…と思ったけど、この魔術師、予想以上に強い!それにnyaとかいう女、能力感じないのに何か得体の知れない何かがあるわ…)
(このベビードールもエナジードレイン強力過ぎるし…)
(ああーん、あるて様ぁどうしよぉ~助けてよぉ~)
その時、小屋の前から声が聞こえた。
「ひぃいぃらぁぎぃぃぃ…、今から助けに行くから大人しく待ってなさい!今のひいらぎも未来のひいらぎも覚悟する事ねぇぇぇぇっ!」
「ほぅ、遂に猫のお嬢さんの仲間が来たみたいですね。はっはっはっ」
「東洋の妖弧、待ちわびたわよ!」
「…。」
(あ、あの声はまいまい!なんか物凄い殺気を感じるぅぅぅぅ!まいまいが怖いにゃあああああ!ああーん、あるて様ぁ助けてよぉ~)