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第15話 怪しげな…

「抹茶の元気な顔も見たし、私の目的も果たせたし、ひいらぎが帰って来たら未来に帰るか」

と、あるては言う。


私も250年ぶりにハムレットとの再会を果たした。それはあるてに取っての過去行きの目的の一つでもあったらしい。


「でもその前にヘル松さんの件が残ってるわ。」


「そうだな。そろそろそちらも片付けに行くとするか。」


そう、奉納相撲で優勝したヘル松さんの優勝賞品「お狐様の口づけ」を、時を改めてという話になっているのである。

もっともあるてが言うには、口づけが目的ではなく人払いをして何かあるてに話したい事があるのではないか?と言う見解でいる。


「では私は出掛けてくる。」


と、立ち上がるあるての後を追う様に私も立ち上がる。


「ん?話を聞きに行くだけだから私1人で大丈夫なのだが…まいまいも来るのか?」


「当たり前じゃない!上で2人でキシキシ音立てている様な所に私1人置いて行かないでよっ!」


「その原因を作ったのはまいまいじゃないか」


「うっ…」


「まぁこれで未来の芹補が無事存在出来る様になったかも知れないしな。」


なんかニヤニヤしてる。

あるて…初めから分かっててからかって来ているな?


「あーもぉっ!私が悪かったからさっさと行くわよっ!」


私が少し声を荒げ気味に部屋を出ると、あるてはくっくっくっと笑いながらそれに続いた。







私達は神社に着いた。

と、言っても抹茶さんのログハウスは神社の裏に少しの場所に建っているので時間にして2、3分と言ったところである。


そこには2人の人影が見える。長治さんとヘル松さんである。

さすがに祭りが終わってから時間が経っているのでその2人以外の人は誰もいない。


重苦しい表情の2人はあるてを見るなり走り寄ってひざまずく。


「お狐様、申し訳ないですだ。実は奉納相撲の口づけの件は…」


「分かっている。何か訳があったのだろう?もう良いから頭を上げてくれないか。」


頭を擦り付けて弁解しようとする2人を制するあるて。

結構大事なところの筈なのに肝心なとこガバッとはしょったわね。


「はっはっはっ、私は神様だからな、そこら辺の察しは良いんだ。」


全く…

つまりはこういう事である。





時間は遡る事数日前…。


ヘル松には寝たきりのまい子と言う病弱な妹がいた。

何とか元気になって貰いたいといつも願っていたが、その願いは叶わず妹はいつ息を引き取ってもおかしくない状態であった。


そこに怪しげな男が現れた。

怪しげな男の風貌は、黒いフードを深く被り顔を隠しているが髪の色が黒では無い。この国の者では無い異人だと言う事は容易に理解できた。


「妹を元気にしてあげましょう。なあに、見返りは何も要りません。ただの人助けです。但し、この事は他言するべからず。それさえ呑んでくれれば妹は元気になる事でしょう。はっはっはっ。」


と持ちかけてくる。


怪しげな男はその話す内容も怪しかったが、ヘル松はまい子が元気になってくれるなら…と、首を縦に振った。


怪しげな男は掌に納まるくらいの怪しげな玉をまい子に向けてかざすと、怪しげな言葉をブツブツ唱え始める。

すると、怪しげな玉は胡桃色みたいな怪しげな光を放ち始め、怪しげにまい子を照らし、怪しげな光を浴びるとまい子は微かにぴくり…ぴくり…と怪しげに反応し出す。

怪しげな男は怪しげな玉を怪しげにまい子の胸の上に載せると、生を失くした筈のまい子は自らの手でその怪しげな玉を両手で包み、その途端にまい子は起き上がり、元気になったという。


「まい子が…元気に…?でも怪しげな…。」


それから、まい子は夜になると姿を消す事が度々あった。

どこに出かけて何をしているのだろう?と不思議に思ったヘル松はのまい子後を付けてみた。


今一人歩いているまい子に一人の村娘がすれ違おうとしている。

すれ違いざま、いきなり道行く村娘の目の前に手をかざすと、村娘は生気を吸い取られた様に力無く妹にもたれ掛かる様に身体を預ける。

そして暫くして村娘は何事もなかった様にまた歩き始めた。


目の前の光景を不思議に思ったヘル松は村娘に近寄り問いただした。


「おい、あんたさっきあの娘に倒れてもたれかかってた様だが、何かあったのかい?」


「はて、何の事でしょう?」


村娘は先ほどの行為を、それどころかまい子とすれ違った事すらや全く覚えていない様子であったと言う。


そんな事が何度か繰り返されていたのだが、不思議な事に村ではその話は一切出る事はなかった。


ある日、またフラフラと出掛けようとするまい子の肩に後ろから手をかけて強引に振り向かせるとヘル松はまい子に詰め寄る。


「まい子、おまえ…夜になるとフラフラ出かけるがいったい何処で何をしてるんだ?」


「兄さん…。」


まい子はヘル松に軽く手をかざすと、その瞬間にヘル松の身体から何かが吸い取られる様に力が抜けて行き、そしてそのまま気を失ってしまった。


ヘル松が意識を取り戻した時にはまい子の姿は既に無く、そのまままい子はヘル松の所から姿を消してしまったという…。


「まい子を元気にしたあの怪しげな奴はいったい…もしや物の怪…?怪しげな…。まい子は物の怪に魅入られてしまったのか…?」





現在に戻る。



「それをおらがヘル松から相談されましてな、だども…物の怪相手ではおら達ではどうする事も出来ず、それでお狐様の力を貸して頂きたいと思った次第ですだ。しかしながらそれが皆に知られてしまえば、皆を不安がらせてしまうし、まい子たんも村八分にされてしまうだど…。皆の前で物の怪の存在を話す訳にもいかず、どうにかしてお狐様に話聞いて貰える場が欲しくてあげな事を…。」


それで長治さんはあるてに口づけなんて呑めない要求を出して来て、引っ込める代わりに話を聞いてもらう…と言う算段を打って出た訳である。


「なるほどな、急に口づけなんてねじ込むからおかしいと思ったよ。」


「申し訳ねぇです…。」



言葉に詰まる長治さんに代わり、ヘル松さんが口を開いた。


「お狐様申し訳無い。俺みたいな貧乏百姓にはお狐様にお願いするだけの貢物なんて用意出来ない。でも話を聞いて貰わないとどうにもならない。丁度この祭りにお狐様が来て下さると聞き、だから長治さんにお狐様に話を聞いて貰える場をどうにか出来ないかと相談したんだ。貢物は俺の命…俺を生贄に捧げるからどうか話を聞いて欲しい。妹を…。まい子を…。」


「はぁ〜…」


あるては深くため息を付く。


「命だの生贄だのなんぞ、私は要らないよ。そんな話、普通に言ってくれれば良いじゃないか。例えば祭りの前に長治さんの家に認識の相談に行った時、あの時にでも話してくれれば…わざわざ優勝賞品口づけとか回りくどいことしなくても普通に受けて立つものなのだが…。」


「あるて、そういう訳にもいかないと思うわよ。」


「まいまい、何故だ?」


そう、あるてはそう言う考えでも村人から見てみたらあるては神様である。のでやはり恐れ多い部分も多々あるのだ。


確かに祭りと言う事もあってそんな堅苦しい事を外す為に『認識』を使ってあるても村娘と言う事にはなっているが、神様と分かっている上での村娘だよとの認識なので、やはり気軽に大層なお願いは出来ないのである。


「そういう物なのか…面倒臭いな。むぅぅ…、なら楽しい祭りとおいしい料理のお礼に話を聞く…先にもてなして貰って心苦しいから私が私の意思でそちらの相談を聞かせて欲しい。それなら問題あるまい?」


「お狐様…ありがとうございますだ…。」


長治さんとヘル松さんは再び頭を深々と下げた。




私は長治さんに気になっていた事を訊ねてみた。

何故「優勝賞品」だったのか?ヘル松さんが優勝したから「時と場所を改めて〜」が使えたけれど、もし他の人が優勝していたらそれは使えない。

あるても勝手に決められた口づけに対して反意を唱えるかもしれない。祭り自体がおかしくなっていたかも知れないのだ。


「まいまいさん、それは大丈夫と思っとったです。何故ならこのヘル松は藩の御前試合にも呼ばれる本物の力士なんだでの。」


元々奉納相撲も村人の中から勝ち抜き戦で代表者を決めてヘル松さんと代表者の取り組みを神様に見てもらうと言う演舞の色が濃かったのを、何とか口づけを盛り込む為にヘル松さんも勝ち抜き戦に参加する事にしてしかも決まり手は押し出しのみと言うハンデも付けたのだと言う。


「お狐様が商品ならそれ目当てに参加する男衆が増え、人数が増えればその中から勝ち上がれば公平に見えるだ。つまり人が増えれば増えるだけ色々とぼかせるでな。まぁどれだけ人が増えてもそれでも今回決まったのが当日、にわか稽古の村人が本職に勝てる訳がねぇ。ヘル松が勝つのは分かってただに。」


なるほどね、ハンデを付けて一回戦からトーナメントさせれば「ひょっとしたら…」「あわよくば…」的な気分にさせておいてでもその実出来レースだったと言う訳ね。


「奉納相撲を使って、算段を立てたんだ、せめて皆が納得するように…か。」


「面目ねぇ、その通りですだ。」


「私の名前で祭りが盛り上がって皆が納得するならそれで良いじゃないか、ふっふっふっ…これにて一件落着だな。」


「一件落着〜じゃ無いわよあるて!やっと話を聞いただけじゃない!」



そう、問題はその先である。


生を亡くしたヘル松さんの妹、まい子たんが怪しげな力により生を取り戻した。

元気になったまい子たんは村娘を襲い出す。が、襲われた娘はその記憶が無い。

やがてまい子たんも姿を消してしまった。


「まとめるとそんな感じになるわね。まずはその妹さんを探す事になる訳だけど…あるて、探せそう?」


「むぅー、そんな怪しげな力が働いているのなら禍々しい邪気が漏れ溢れているはずだし、それを感知して辿る訳だが…まぁこの村の何処かにいるなら直ぐに見つけれるさ。」



あるてはそう言うと両腕を広げて眼を閉じる。

精神を集中している様だ。

やがてあるての身体から薄黄色と薄青白い色が混じった妖気のオーラが薄っすらと浮かび上がる。

時間にして5〜10秒位だろうか?その状態が続き、そして消えていった。


「むぅ〜…」


あるては深くため息をついた。


「お狐様…直ぐに探すの終わってしまったが、探すのは無理だったのか?」


「いやヘル松、そうじゃない。探すまでも無いって事だよ。感知しようとしたら向こうは邪気を隠そうともせずにジャブジャブと溢れさせている。これではまるで見つけてくれと言っているようなものだ。人数は3人。この村にこの時期にこの邪気だ、その中にまい子がいるのは間違いないだろう。」


「お狐様、それでまい子はどこに!?」


「むぅぅ…それがだな、この近くみたいなんだ。この神社をもう少し奥に行った所にいるのだが…」


「そんなに近くにまい子は居たのか!」


ヘル松さんは驚きを隠せないでいる。

姿を消した妹がそんなに近くにいたのだから無理もないだろう。


更にあるては続けた。


「そのまい子の力、まいまいに似ているな。性質は呪い…エナジードレインだ。」


私はドラキュラの呪いで夢魔になってしまい、人間の精気を吸い取る能力がある。

その私と同じと言う事は…まい子たんも呪いで夢魔化して…


「まさか!ドラキュラが!?でもあるてが倒した筈じゃ!」


「むぅぅ、そうなんだ。だからそうは思いたくは無いがドラキュラとゆかりのある者の仕業とか…まぁ西洋の呪術師の類が絡んでいるのは間違い無いだろう。」




「後な…気になるのがその3人の他にもう一つの妖気が感じられてな…ひいらぎの物だ。」


「ちょっと待ってあるて、ひいらぎが!?なんでひいらぎがそんなとこに!?」


「それは…分からない、何か変な事に巻き込まれていなければ良いが…。」  





その時、私達の所に一人の少年が血相を変えて走って来た、安二君である。

見れば羽織っているはっぴは引き裂かれてボロボロの血だらけで、胸には切り裂かれた様な爪痕もあった。


「安ニ、おめそのナリはどうしたげな?それにその胸の傷痕…さっきまでそげなもん無かっただに!」


「父ちゃん、これは熊に襲われたんだけど、ひいらぎが治してくれたからもう大丈夫だ。そう、ひいらぎだ!お狐様、大変だ!ひいらぎが変な奴らに捕まった!」


「ええっ!?」


「安二、詳しく話せ!」


「おいら、この先のボロ小屋でひいらぎと花火見ていたんだ。そしたら熊に襲われて…、死にそうになったおいらをひいらぎが助けてくれたんだ。そして…」


安二は顔を赤くして一瞬口篭るが、長治さんがそれを急かした。


「安二、どしただ?早うお狐様に言わねか?」


「えっ?いや…何でもないよっ…。そしたら変な3人組が来て襲って来たんだ…ひいらぎはおいらを庇いながら闘ってたんだけど向こうは卑怯にも3人がかりで襲って来たんだ。ひいらぎはおいらを逃がす為に3対1で闘って捕まってしまって…」


安ニ君はゴソゴソと何かを取り出してあるてに見せた。


「これはひいらぎがお狐様に見せろ…と、おいらにコッソリと渡したものだ。お狐様に見せれば解るから…と。」


「あるて、これって…」


「ああ、間違いないな。」


それは紛れも無く猫神様の猫玉である。


「むぅぅ…なるほどな、そういう事か…。安ニ、してその3人組はどんな感じの奴らだ?」


「深くフード被った男と、黒いマント羽織った女と…、後は…まい子たんがいたんだ…!」



「なぁヘル松さん、なんでまい子たんがあんな奴らと一緒にいるんだよぉっ。」


「まい子は今、悪い奴らに騙されて利用されてるんだ。」


ヘル松さんは悔しさと申し訳なさとが入り混じった複雑な表情をしていた。




「悪い予感は当たってしまった。残念だが確定だな…狙いは私だ。全ては私をおびき寄せる為に仕組まれたんだ。」


「お狐様どういう事なんだ?なんでお狐様目当てでひいらぎがあいつ等に…!」


「安ニの胸の傷、ひいらぎが治したと言ったな?」


「ああ、傷が深くて死にかけのおいらをひいらぎが術使って助けてくれたんだ。」


「その術は「あのヤツ」と言うんじゃないか?」


「ああ、ひいらぎは「あのヤツ」って言ってたよ。」


「それだけの傷を完治させる「あのヤツ」、正式には「双魂蘇呪縛(そうこんそじゅばく)(ちぎり)」と言ってな、自らの生命エネルギーを莫大な妖力と一緒に相手に送り込んで二人の魂を強引に結びつける猫族に伝わる術なんだ。」


「そうこ…覚えらんないよ…。」


「ま、ひいらぎも覚えられなくて「あのヤツ」って言ってたからな。双魂蘇呪縛の契を使えばひいらぎの妖力はほぼ空っ欠、体力も底を尽きまともに動ける状態じゃ無くなる。その状態にする為に熊も操って襲わせたのだろう。この時期に熊が里に降りて来る事は無いからな。」


「でもお狐様、西洋の奴らがなんでひいらぎの「あのヤツ」を知ってるんだ?」


安ニ君、面倒臭くなって言い方を「あのヤツ」に戻したわね。

ひいらぎの術を奴らが知っている、それは私も気になった所である。


「何でなの?あるて」


「まいまいも基本は呪術…エナジードレインだから分からなくても無理は無いな。」


あるての言うには、双魂蘇呪縛の契で無くても蘇生術の類に分類される物は莫大な体力、精神力が必要とされるらしい。


「私も以前に抹茶とハムの魂を融合させる為に法力を覚えたのだが、実際にやってみると見事にぴくりとも動けなくなったんだ。その事が無ければ私にも分からなかったさ。攻撃や幻術の類は得意だが回復、蘇生の類は専門外なのでな。」


「ひいらぎの妖力の匂いから何らかの蘇生術の存在を嗅ぎとったのだろう。奴らの目的が私ならひいらぎ襲う計画は今朝立てられたもの、今日の二人のいちゃつく様子から安ニが襲われたらば蘇生術使うと踏んだんだ。」


「お狐様、おいら達そんなにいちゃついてねぇよ…」


確かに私達がこの過去世界に来たのは今朝。

ひいらぎと安ニ君は傍から見ても意識し合ってるのはバレバレだったから、どこかでその様子を見て利用されたのね。


「ひいらぎを手中に収めて安ニを逃がせば間違い無く私の所に来るだろう?安ニは伝書鳩代わりに使われたんだ。ひいらぎは私をおびき寄せる為の餌にされたと言う事だな。」


「お…お狐様、罠だからひいらぎを…助けに行ってはくれないのか?」


「罠だから助けに行かない、と言う選択肢は無いな。ひいらぎは大切な家族であり仲間だ。」


「お狐様、ありがとう…。」


顔を青ざめさせながら不安な目をする安ニの頭をクシャクシャ撫でながらあるては言い切った。

安ニは安心したのか顔の緊張もほぐれ、そのままあるてに抱きついて涙する。


「さて、ひいらぎを助けに行くか。」


私達はひいらぎを助ける為に小屋へ向かった。





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