第13話 再会
祭りが終わり、一同は抹茶のログハウスに戻って来ました。
祭礼が終わり、私達は抹茶さんのログハウスで、レナさんの入れてくれたお茶で一息ついていた。
ここに居るのは私、あるて、抹茶さん、レナさんの四人である。
「お狐様、先程の花火、物凄く綺麗でした。あんなに豪勢な花火、初めて見ました。」
「確かにこの貧乏村では花火上げるなんて出来ないし、藩ももっと小規模な物しか上げないから、あるて様の花火は村人全員喜んでいたと思います。」
レナさんと抹茶さんは感想を口にする。
確かにあの花火は素晴らしいものだった。
「あるて、3時間は花火上がっていたけど、この250年前の時代でなくても現代でもかなり豪華な部類に入る程じゃない?素晴らしかったわ。でも大変じゃないの?あそこまで豪華なのは。」
私も褒めてみる。
皆がべた褒めする物だからあるてもちょっと機嫌良さそうだ。
「いや、そうでもないさ。私が見た物、感じた物を虚術でその幻を見せているだけだからな。」
と、テーブルの上に小さな花火を出した。
その花火はまりも大の大きさで小さな音を立ててぽんぽん言っている。因みに熱量はない。
「まぁ今はこの虚術をここに居る人だけに見せているが、これを村全体に見せるだけの話だ。要は大きさと範囲が違うだけでそこまで大変な物ではないのさ。」
「更にこんな事も出来る。」
と言うと、テーブルの上に小さいひいらぎと、安二君がぽんと出て来た。
その2人は花火を見ながら手を繋ぎながら歩いていて、そしてちょこんと座って肩を寄せ合っている。
「あら、可愛い。ひいらぎちゃんも安ニくんもいい感じね」
それをレナさんは目をキラキラさせて見ていた。
どこに行ってんだかあの二人…ひいらぎと安ニ君は奉納相撲の時に飛び出して以来戻って来ていない。
「まったく…ひいらぎも友達出来て嬉しいんだろうけどさ、安ニ君引っ張り回して迷惑かけてないと良いけど…。」
と、私は心配してみたが、
「うーん、ひいなら引っ張り回しているのはありそうだけど、安二も結構しっかりしているから大丈夫なんじゃないかな?」
「ひいらぎちゃんも安ニくんもお互いの事ちょっと気になってるみたいだし、デート感覚で遊んでるかもしれないわね?」
どうやら心配しているのは私だけのようだ。
安二君の事は二人のが良く知っているし、ひいらぎに関してなら抹茶さんは250年一緒に暮らした、言わばエキスパートである。
その二人が大丈夫と言うなら、まぁそっちは心配無いだろう。
「jebfjsbd、二人はこんな感じで花火見ていたのかな?うまく行くと良いわね。」
「安ニも奥手だからな、勇気出して手ぐらい握ってると良いんだけど。」
レナさんと抹茶さんが話している。
因みにjebfjsbdと言うのは抹茶さんの事である。
親が何故生粋の日本人の彼にこんな名前を付けたのか、なんて読むのかは謎であるが、何だかよく解らないがとにかくjebfjsbdである。
レナさんの登場シーン以来たまにしかその名が出て来てなかったから忘れてた人の為に今言っておかないとダメな気がしていたんだ。jebfjsbd…ちっ、言いにくいな。
「まいまい、どうしたんだ?突然…。何言ってるんだ?」
「私にも分からないわ、口が勝手に…。」
「奥手と言えば抹茶やレナも似たような物だろう?」
と、テーブルの上の小さいひいらぎと安二君の少し離れた所に、小さな抹茶さんとレナさんがポンポンっと現れる。
その2人はひいらぎ&安二君みたいに座って肩を寄せ合って花火を見ているが、抹茶さんがレナさんの肩に手を置き、キスをし始めると二人は抱き合いながら、なかなか離れようとしなかった。
「抹茶もこれくらいレナにしてやらないとな。」
「あるて様、そんなことしませんっ」
「でもレナはキスして欲しそうだぞ?」
レナさんをみると顔を真っ赤にしていた。
「ほら、否定しないじゃないか。」
その言葉に抹茶さんも意識してしまったのか、真っ赤になっているレナさんを見るなり顔を赤くしてしまっている。
その二人がなんか初々しくてほほえましい。
でも抹茶さん、レナさんは婚約者で同棲してるんだからキスくらいもっと積極的に行かないとだめよっ!
キスと言えば、心配なのはこちらの方である。
「あるて、口づけの方は大丈夫なの?」
そう、あるては奉納相撲の優勝者に御加護を与えると言う名目で、その唇を優勝賞品にされてたのだが、長治さんによる申し出により、双方了承の上で時を改めて行う事と言う事になっていた。
「まいまい…それなんだが、多分口づけはしなくても大丈夫そうだぞ?」
「え?なんで?」
「ヘル松は優勝したとか、私と口づけ出来るという浮かれた感じでは無かったし、もっと重苦しい表情をしてた様に見えたからな。長治さんも解ってたんじゃないかな?多分。」
あるてが言うにはヘル松さんが「時を改めて」と言ったのは、人払いした上で何かあるてに話したいことがあったのでは?と言う事だった。
確かに優勝賞品であるあるての唇は、その場で与える事で意味を成すである。
時間をずらしたと言う事はそれなりの意味があっての事なのかも知れない。
「まぁそれはその時になれば解るさ。」
神様のくせに楽天的なその物言いはまさにあるてらしい。
「まいまい、やけにキスにこだわるじゃないか。それならこんなのはどうだ?」
と、テーブルの上に新たに出て来たのは私とハムレットである。
二人は抱き合いながら唇を交わしている。
時には長く、時には短く熱く愛を語っているような濃厚なキスだった。
抹茶さんとレナさんはそれを熱い視線で見ていたが私は…
「ごめんなさい…疲れたからすこし休ませて貰うわ」
私はそう言うと、ガタっと席をたちリビングを後にした。
そんな私を追いかけて、レナさんは私を二階の寝室へと案内する。
「まいまいさん、この部屋を使って下さい。」
案内された部屋は8畳位の部屋に布団が三組敷かれている。
私、あるて、ひいらぎの分だろう。
「まいまいさん、なんか…すみませんでした。私達、まいまいさんの気持ちも考えずに…」
「何のことか解らないわ…ただ、ちょっと疲れただけよ…。朝からバタバタしていたから…。」
「そうですか…。こんな所で申し訳無いですが、ゆっくり休んで下さい。」
「いや、レナさん。いきなり押し掛けた私達の為に何から何まで…。こちらこそ迷惑かけて申し訳ありません。」
バタン。
私は部屋に入りドアを閉めると、トテトテとレナさんの階段を降りて行く音が聞こえ、そしてその音もしなくなった。
私は急に淋しくなる。
あるては私に「ハムレットに会いたくないか?」とこの250年前のの過去に私を誘った。
初めて抹茶さんに会った時、私の事をカーマインと呼んだ。
その名前は私の本当の名前、夢魔になってからはまいまいと名乗っていたけど今となっては本当の名前を知っているのはハムレットだけ…
抹茶さんの中のハムレットの残留思念が私の事覚えてくれていたのかも知れない…でもね…。
確かに私はハムレットが自分の命を捧げてまで救ったという抹茶と言う人間がどんな男か見て見たくてこの世界に来た…。
でも抹茶さんはレナさんと恋人同士…
ハムレットが生かした抹茶さんとレナさんが仲睦まじくしているのを見るのが…、なまじハムレットの残留思念が私を覚えている分、私には辛いわ…。
その上あるてにあんなものまで見せられて…。
もう会えないと思って諦めていたハムレットの影…会いたくなってしまうじゃない…
こんなの生殺しよ…
ハムレットに会いたい…
私は自分の感情が抑えられなくなり、私の内から涙が止めどなく溢れてくる。
「う…ううう……」
すすり泣く声が、必死に我慢しようとしても出てしまう。
(こんな声…抹茶さんや…特にレナさんには聞かれる訳にはいかないわ…)
咄嗟に枕に顔を埋めるも、少し声が漏れていたのかも知れない。
この250年前の過去世界…私に居場所が無い…
何やってるんだろう…私…。
コンコン…コンコン…
「まいまい、起きてるかい?」
その音で私は目を覚ます。
ついウトウトしてしまったみたいだ。
「大丈夫よ。」
私は慌てて返事を返すと布団から起き上がり、ドアをあけた。
ガチャリと音のする向こうにはあるてが立っていた。
そしてその後ろにはレナさんともう1人…。えっ…!?
「ハムレット!?」
そう、目の前には私の恋人であるハムレットが立っていた。
しかし、ハムレットは…もうこの世にはいる筈がない。
「あるて、悪い冗談なら辞めて。仮にさっきの事は百歩譲って笑って許したとしても、これはやり過ぎだわ、怒るわよっ!」
「まいまい、そう怒るな。このハムは間違い無く本物だよ。抹茶の中に残るハムの残留思念を呼び起こし、私の法力で抹茶の表層人格に憑依させたんだ。」
「この250年前行きに私にはいくつか目的があってな?その内の一つに「ハムにまいまいと会わせてやる事」があったんだ。」
あるては私に話してくれた。ハムレットと抹茶さんの事を。
昔、瀕死の抹茶さんを助ける為に、あるては抹茶さんを虚術で精霊世界に250年治療の為に呼び寄せていた。
身体は回復したがそれは精霊世界の中だけの事、人間世界に戻ってしまえばたちまち死んでしまう。
もはやレナとの再会は絶望的とされていたのだが何とか抹茶さんをレナさんに合わせるために、あるてはレナの子孫である芹穂にレナの人格を憑依させた事があった。
「今回はそれをハムでやったんだ。私の心残り…と言うか、抹茶を生かすために自らの命までかけたハムに何とか恋人に会わせてやりたくてな。勿論、まいまいに対してもだ。」
「あるて…。」
「これは…今回の過去行きの旅の目的の一つだったからな。但しその再生は一度限り、制限時間もあるが…心残りの無いようにとは行かないかも知れないが、積もる話もあるだろう。2人でゆっくり話すがいい。」
私は突然現れたハムレットと、あるての話に驚いてしまい、棒立ちになっていた。
ハムレットはそんな私にそっと近づき、優しく抱きしめる。
「カーマイン…」
それは私の本当の名前である。夢魔になりドラキュラに復讐を誓ってからは捨てた名前…。
今となってはその名前を知る人はハムレットだけである。
そして、ふいにその名前で呼ばれて、私の心は無意識にカーマインの頃の自分になってた。
私はハムレットの胸に自分の顔を自然に預けた形になると、その懐かしい温もりに自然と涙が溢れ、頬を伝った。
「あっ、あのっ」
と、声を掛けてきたのはレナさんである。
「まいまいさん、もうハムレットさんには会えないかも知れない…最後かも知れないので、その…何があっても大丈夫なので…私の事はその、気にせずに…もちろんjebfjsbdの事も大丈夫なので……。どうか二人の時間を過ごして下さい。」
レナは顔を赤くしながらそう言うと、パタパタとその場から逃げるように去って行った。
「では私も席を外すとしよう。」
あるても居なくなりここには私とハムレットの2人きりになる。
「レナが、していいってよ?」
「もぉ、バカ!するわけ無いでしょっ!」