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第10話 特別席で接待を受けている妖狐ちゃんの唇が大ピンチ!

そろそろ夕方になり、囃子太鼓や笛の音がちらちらと聞こえて来だした。

威勢の良い大人の掛け声や、子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。

神社にも村人が集まって来ているようだ。


「今頃、長治さんが村人達に説明してくれている頃だな。」


あるてが長治さんにお願いしたのは、安ニ君発案の、ひいらぎを村娘と認識させる為に一瞬だけ村人全員に認識をかけ、その説明の事である。


しかもその認識は、ひいらぎの他にも私やちゃっかりあるてまで村娘にしちゃってるみたいだ。


「その方がまいまいも肩が凝らなくて良いだろう?」


それはまぁそうだけどね、でも元々最初にあるてが私達がお弟子様って村人達に紹介したのがそもそもの始まりじゃない…。





ガチャリとドアが開いて抹茶さんが入って来る。浴衣に着替えたみたいだ。その色は柔らかい黄緑色…抹茶色の浴衣である。


「抹茶が抹茶色だ〜。」


物珍しそうに抹茶さんの浴衣を見るのはひいらぎである。


「jebfjsbdは皆様から抹茶と呼ばれてますのでその色にしました。」


「ほう?てっきり抹茶が、狙ってやったのかと思ったが、レナもこう言うシャレとかするんだな。」


あるては可笑しそうにくっくっくっと笑っている。


「いえ、jebfjsbdがそうしようと。」


「ベタだな、抹茶。」


あるては抹茶に白い目を向けながら、呆れてフゥ〜とため息をつく。



あるてのレナさんと抹茶さんに対する態度の違いは何だろう?

相変わらず抹茶さんの扱いが酷いな…とか思いながら、私はフゥ〜とため息をついた。







そろそろ祭りの始まる頃だ。私達も抹茶さんレナさん達と共にログハウスから神社に向かった。

レナさんも水色の浴衣に着替えてきている。

ひいらぎはレナさんが、自分とお揃いの浴衣なので嬉しそうだ。

その横では安二君が顔に出すまいとしているが、浴衣姿のひいらぎにちょっと嬉しそである。


神社に着くと、提灯で灯りが灯されて、しっかりとやぐらが組まれ、上には大太鼓が設置されている。

盆踊りとかもやるのであろう。


「おやお狐様達、3人とも浴衣着てるのかい?似合ってるねぇ。」


「レナが私達の為に時間の無い中あつらえてくれたんだ。」


「今日はお狐様の為に開かれる祭りだからぜひ楽しんで行って下さいねぇ。」


「うむ、楽しみにしている。」




「まいまいさん、浴衣とても似合ってて綺麗だ。日本の祭りは初めてだか?」


「ありがとうございます。今回が初めてなのでとても楽しみにしてます。」


「美人の異人さんまで楽しんで貰えるとあったら村の男衆皆張り切れるというものだで。後で酒注()ぎに行きますだ。」


「なに?それは俺の役目だで!」


「おめら抜け駆けすんなやーっ!」


「み、皆さんから頂きますのでケンカはやめて下さい」




「やぁひいらぎちゃん、着物可愛いじゃないか。」


「木介ありがとう~。おさーんも可愛いって言ってくれたよ~」


「ほぉ~おさーんの口から可愛いと…。どんな顔してひいらぎちゃんに可愛いって言ったんだい?」


「木介うっせっ!」






村人とすれ違うと私達の事を「お弟子様」ではなく声をかけてくれる。


「長治さん、うまく説明してくれたみたいだな。しかしながら、二人にはひいらぎちゃん、まいまいさんなのに、私はお狐様のままなのはなぜだ!?」


「あるて、まさか自分の事を「あるてちゃん」とか呼んでもらいたかったの?」


「そういう訳ではないが、あるてさん、とかせめてあるて様、とか多少くだけた感じでだな…」


「あんた神様なんでしょ?たとえ認識使っても神様は神様なんだから諦めなさい。」


「むぅぅ…」


とは言っても、あるてに対しても多少緊張と言うか恐れと言うかは無くなって、親しみを持って接して来ているのを見ると、認識と、長治さんの説明の効果はちゃんと出ているみたいだ。


さすかに祭りで堅苦しく過ごすのもキツイので、そこはひいらぎと安ニ君に感謝と言ったところである。


笛と太鼓にのって、山車(だし)と神輿がやってくる。

山車は大人が引いているが、その後ろから来る神輿の方は担いでいるのは子供みたいだ。

サイズも一回り小さい子供神輿である。


「抹茶、大人は担がぬのか?」


「子供は天からの恵みと言う事で、まずは子供が神様にありがとうと神輿と踊りを奉納するんです。その為に大人が山車を引いて子供達を神様の前に連れて来る役割をになってます。大人は子供達の奉納が、終わった後で担ぐ事になりますね。」



子供神輿の方からこちらに向かって叫んでいる声が聞こえる。


「おさーん、お前何やってんだ、お前もこっち来て担げよ!」


木介である。はっぴを着て神輿の先頭で担いでいた。


安ニは神輿に走ってゆくと、はっぴを受け取り影でぱぱっと素早く着替えて木介の隣で担ぎ始めた。


「楽しそうだなぁ〜」


「ひいらぎ、担ぎたそうね。」


「そっそんな事ないわ、私はおしとやかにそれを眺めて楽しむのよ。」


ひいらぎは見てわかる程ウズウズしている。

顔から「ウ」と「ズ」が出て来そうだ。


神輿の方からは安ニがひいらぎを呼んでいる。


「おおーい、ひいらぎも来いよ。一緒に担ごう!」


その声に反応するかの様に耳をぴくぴくさせている。


「ひいらぎ、行きたそうね。」


「そんな事ないにゃ…私は一生懸命頑張っている男達を慈愛の心で愛でるおしとやかでおくゆかしき女性…」


「はいはい、無理して難しい事言わない!意味分からないわよ。もう行っちゃいな、顔に書いてあるウズウズはもうとっくに行っちゃったわよ。」


「まいまいがそこまで言うなら仕方ない、行ってあげるか〜。」


と、言うと次の瞬間にはぴゅーと神輿の方に飛んで行き、浴衣の上に軽く半被をはおって、元気良い声を上げて担いでいた。


「ああ〜もう面倒くさいわね、行きたいならチャッチャと行っちゃえば良いのに。」


「まぁひいらぎにゆっくり祭りを眺めるなんで出来るわけ無いからな。全部混ざって参加して楽しみたいタチだから。」



ひいらぎ達が威勢良くワッショイしてる神輿の前に位置する山車では数人の男達が周りの村人達にお酒をふるまいながら付いて来ている。

その中の一人がこちらに近づいて来た。

長治さんである。


「これはこれはお狐様、ここにおられましたか。」


と、私達に升を渡してきてそれに酒樽から柄杓で汲んだ酒を注いだ。

あるてはその酒に口を付けながら認識の説明の件でお礼を言っていた。


「長治さん、説明の件ありがとう。お陰でひいらぎも安心して祭りを楽しめている。」


「でも長治さん、あるては「私はお狐様のままじゃないかーっ」て拗ねてましたよ?」


と、私は付け加えてみたら、それを聞いた長治さんは、はっはっはっと笑っている。


「お狐様はどこに居るか分からない良く解らん神様じゃなくて、この神社に奉られている本物の神様が目の前においで下さってるでぇ、そこはオラ達からしても譲れねぇとこだでの。何とか機嫌取ってこの村の事お願いしとかなあかん。」


と、隠さずに言うところを見ると、長治さんはじめ、村人達もあるてに対してくだけているみたいだ。

そんな感じを分かったのか、あるても


「うん、十分楽しんでいる。」


と、空にになった升に再び酒をついで貰っている。


「では特別席を用意してあるだで、どうぞそちらに。」


「特別席?」


「この祭りは神様を奉るこの神社の完成を祝って行っているもの、だでその神社の神様に見て貰わな意味ないでな。」


「そんな気を使わなくても良いのだが…そう言うのは肩がこるしな」


「くっくっくっ、そこは「お狐様」として諦めてお呼ばれして下せぇ。」


「なるほど、」


あるてはふぅ~と大きくため息をつきながら笑い、長治に従うことにしたみたいである。


「ではまいまいさんもこちらへ。」


私もみたいだ。


「お狐様とお弟子様の2人には申し訳ねぇだども奉りあげられてもらいますだでの。お狐様達をお世話するお付きにはjebfjsbdとレナ、それにオラの(せがれ)の安二を付けますだで何なりと言いつけてくだせぇ。」


長治さんの後について行くと、境内には所狭しと料理が並べられていて、そこからは祭りの様子が良く眺められる様になっていた。

見ると、ひいらぎが元気に担いでいる姿もよく見える。

さすがは特別席と言った所だ。こちらからもよく見えるが、向こうからもこちらがよく見える。ひいらぎが私達に向かって笑っていた。



「いなり寿司なんだな。」


あるては料理を見て嬉しそうにしている。


「へぇ、お狐様は油揚げが食べたいとの事でしたので、黄金(こがね)に輝く米俵を神様に捧げて豊作祈願をと言う事でおいなりにしました。」


「そうか、馳走になろう。」


あるては腰を下ろしていなり寿司を一つ口に運ぶ。


「うむ、美味しいな。」


「へぇ、村の女衆が心をこめて作りました。お口に合えばこれ幸いにと思いますけぇ。」


私もそこに座り料理を頂く。

確かに美味しい、この時代の物は余計な物が入って無く、純粋に素朴な味を楽しめる。

なにを食べても美味しかった。


そこに子供神輿の奉納を終えたひいらぎと安ニが村人に案内されてやって来ると、ひいらぎは、そのごちそうの山に感激していた。


「魚もある~♪」


「へぇ、でも不漁で大きいのも無く量も少なくなってしまって…申し訳ねぇでのぉ…」


「長治さん大丈夫よ、私達の為に一生懸命準備してくれた皆の心が一番嬉しいから。いただきまーす♪」


と、ひいらぎは料理に箸をつけ、もの凄い勢いで食べている。


「ひいらぎ、ガツガツと食ってるなぁー、誰も取らないからゆっくり食べる事出来ないのかよ。」


「そうなんだけどね〜、どれも美味しすぎて。ほら、安ニにもお刺身おすそ分け。はい、あ~ん」


「あ~ん、じゃねえよっ!」


安ニは顔を赤くしながら否定したが、ひいらぎは隙をついて安ニの口に箸を突っ込んだ。


もぐもぐ…もぐもぐ…


「なんだ、これうめぇっ!生まれて初めてこんな物食べた!」


「それはマグロの一番美味しいとこで大トロって言うんだよ。」


「うまいけど、なんかちっちぇーな。」


「あはは、なら小トロだね。でも私は満足してるよ。だって村の人達の心が沢山詰まっているからね。」


これらの料理は神様に対してのお供物であり、安ニ達お世話係の分まである訳がない。

それ以前にそもそもこんな贅沢な物は村人が普段口にする事はほぼ無い物ばかりである。

ひいらぎもそれが分かっているから皆の心に応えるには村人達の用意してくれた料理を美味しく頂く事が何よりなのである。


(ひいらぎに、でかい奴食わせてやりてぇなぁ…)


と、安ニは心の中で思っていた。


「ではオラは奉納相撲の準備がありますのでこれで」


と言うと、長治さんは特別席から立ち去って行った。




その後祭りは進み、大人の奉納神輿が終わって今は男衆による奉納相撲が行われている。

西と東に分かれ、勝ち残った二人による最後の取り組みとなった。



「にぃしぃー、jebfjsbd!」


行司が名前を呼ぶ。


「ほぅ、抹茶勝ち残ってるじゃないか。」


あるては手の盃を口に運ぶとクイと酒を流し込む。



「ひぃがしぃー、ヘル松ー!」


「ヘル松…ゴリラフェイスだな。パワーがありそうだ。」


相手は抹茶と比べてかなり体格の良い大男で、

相撲は四つに組んで力で相手をねじ伏せると言うものであった。


それに対し抹茶はまだこの時代に無い現代相撲の技術や戦い方を知っているので相手の虚を突き勝ち上がって来ている。


「つまり、こすい勝ち方なんだな。」


あるて…言葉選んであげようよ…。


「しかし、凄い盛り上がりね、村の男の人は殆どが参加しているって位よ。」


「まいまい、それは賞品が良いからな。なにせ神様である私の加護が直々に受けられると言うとてつもなくありがたいものだからな。」


あるてはいやに鼻高々だ。

確かに実在する神様からの直々の御加護とあれば皆張り切るのも頷ける。

でもそのお陰での参加者多数で

奉納相撲はもの凄く時間がかかり、ひいらぎは飽きてしまって安二君を連れて遊びに行ってしまっていた。


でもね…、あるては気付いて無いかもだけど、男達のあるてを見る目がちょっと違うような気がするのよね…。





取り組みが始まると、初めは細かく相手をけん制していた抹茶であったが、一度捕まってしまえば後の祭り、ヘル松に力で押し切られてしまったのであった。



取り組みが終わり戻って来た抹茶は酷く肩をおとしている。


「抹茶さんお疲れさま、そんなに負けたのが悔しかったの?」


「違うんですよまいまいさん、負けてしまってあるて様に申し訳なくて…。私が勝てば何とかごまかす事も出来たんですが…」


「ん?私か?何が申し訳無いんだ?面白い取り組みだったぞ?」


身を乗り出すあるてはほろ酔いで機嫌良さそうにクククと笑っている。


「いえ…優勝賞品、大丈夫なんですか?」


「賞品?あぁ、長治さんが頼みに来たな。何でも私の加護を与えて欲しいと。だから私の妖力で多少の魔除け、厄除けでもしてやろうと思っていたが。何か問題があるのか?」



私は奉納相撲の案内の書かれた紙を見てみる。

確かに優勝者には「お狐様の御加護」と書かれている。

しかし…


「ち、ちょっとあるて、大変よ!これ見て!」


紙には『お狐様の御加護』と書かれているが、その横に『(口づけ)』と書かれていた。


「なにぃっ!?口づけだと?どういう事だ!私は加護までしか聞いてないぞ!」


「ええっ!あるて様知らなかったのですか?」


「当たり前だ!知っていたらこんな話受ける訳無いだろう!」


でもあるてが頼まれたのは御加護まで、どうして内容が変わってしまったのだろう?


「あるて、何か心当たりない?」


「と、言われてもなぁ………………………。いや、待てよ?そう言えばあの時…。」







時間はさかのぼって祭りの始まる前。




私が一人で居るところに長治さんが近寄ってくると、話しかけて来た。


「あのぉ…お狐様、祭りで奉納相撲をやるだけども、その賞品にお狐様の名前を使わせて貰っても宜しいかの?」


「賞品に?私が何をするのだ?」


「本物の神様がおいで下さってるので、優勝者には御狐様が直に御加護を与えると言うものです。まぁ細かい変更はあるかも知れねぇだども。もっともお狐様が宜しければ、の話なんですが。」


私は特に反対する理由も無いしそれに了承した。


「まぁ確かにそれは縁起物だからな。私の名前で盛り上がるなら是非使って貰って構わないさ。」


「ありがとうございますだ、なら細かい変更はあるかもですが、そんな感じでいかせて貰いますだで。」


私の了承を得た長治さんは立ち去ろうとした時、ふと振り返る。


「……………もし細かい変更が合ったらお知らせした方が宜しいですか?」


「いや、別に良いよ。そんなに深くは変わらないだろう?」


「まぁちょっと一言付け加えるとか付け加えないとかの違いです。」


「なら構わないよ。それも含めて楽しませて貰うとしよう。」






現在に戻る。




「ああっ!それだったのかあっ!!そう言えばあの時、やたらと念を押していたから変だとは思ったんだ。今思えば、立ち去るとき少しぎこちない笑いをしていたような…」


あるてもその時に気付きなさいよ…

その時に長治さんに色々と聞いておけばこんな事にならなかったのに…。


「まいまい、それは無理だろうなぁ。あの感じだとどうあっても口づけを盛り込みたい感じだろう。何故かは分からないけどな。」


そうなるとこの用意された特別席も優勝賞品のあるてが良く見える為の席と言う事なのか、村の男達のあるてを見る目が違っていたのも頷ける。


でも、とにかく何とかしないとあるてが大変なことになるわ。

長治さんに直接話つけて口づけだけは避けないと…


私達は特別席から飛び出し、男衆の脇に立っていた長治さんに走り寄った。

血相を変えて走ってくる私達に長治さんも気付いた様で、向こうもこちらに近づいてきた。



「これはこれはお狐様、相撲大会、大盛り上がりでしたね。これも全てお狐様のお陰ですだよ。」


あるては一気に長治さんに近寄ると、多少の語気を強めた声で問いただした。


「長治さん、一体どういうことだ?私は口づけするなんて聞いてないぞ!?」


「いえいえ、細かい変更はあるかも知れないとお伝えしただよ。」


「口づけが細かい変更である物か!」


「だども、説明した通り、一言付け加えた程度だどもな。それに変更があってもお狐様には連絡しなくてもいいだと言う確認はしとりますけぇ」


「くっ…一応スジは通っているな…」


あるて…スジ通って無いわよ…






「では優勝者のヘル松は前へ」


長治さんと問答している時、ヘル松さんの名が呼ばれる。

ヘル松さんが村人の群衆の中から皆の出てきて、私達や長治さんの前に来ると(ひざまづ)き頭を下げた。



「くそう!あの美しいお狐様の唇があいつの物にーっ!」

「羨ましいっ!」


村の男衆の声が所々から聞こえる。


ってこの状況…これはどういう風に見てもあるての御加護を受け待ちの状態よね…。

村人(男衆)の嫉妬の目が思い切り浴びせられて、逆に言えば口づけしなければいけない状況になってしまっていると言う事になる…。


「私はヘル松に口づけしないといけないのか…?」


「どうするのよ、あるて…」


「どうすると言われても…」


さすがのあるてもこの状況に対して困惑するばかりである。

なかなか動けないあるてに対して時間が緩やかに過ぎて行く空間の中で、長治さんが口を開いた。


「お狐様もこれだけの目に晒されて口づけするのもさすがにしにくいかと思われますので、時を改めて皆の目に触れないようにして口づけする、と言う形でどうでしょうかの?」


「・・・・・ヘル松に異存が無ければ、私は大丈夫だ。」


「俺も異存は無い。」


二人とも異存無しと言う事で、祭り終了後に再びここの境内で

「御加護の儀式」が行われることになった。


「ってあるて、口づけの約束しちゃって大丈夫なの?」


「大丈夫ではないが…今、長治さんが私を見たときの目が何か違っていたのでな?優勝賞品に無理矢理口づけを盛り込んだのは何か訳かあったのでは?と思ってね。」


「でも、もし本当に口づけしなきゃ行けなくなったらどうするつもりよ?」


「その時は断るさ。私は全然知らない話だったしな。ヘル松と口づけなんて勘弁だぞ…他の事なら別に良いのだけど。」


と、周りに聞こえない声であるては言った。

あるてなら力ずくで反故にする事も簡単に出来る。まぁそんな事はしないだろうけど…。

それにしてもあるて…ヘル松さんは全否定なんだね…。



「でも長治さん、私達がそれで良くてもここに集まった人達はそれでは納得しないだろう?何せ私の口づけする所を見たくてウズウズしてるのだからな。」


「それは確かにそうだども…」


「だから私は皆にこれをプレゼントしてあげよう。これで皆の昂ぶった心を落ち着かせてくれ。この祭りを私達の為に催してくれた村の皆への御礼だ。」


と、言うとあるては両腕を広げ、その両手は青白く光っている。

その光を頭上に掲げるとその光は薄く広がり村全体を包み込んだ。


「お狐様…何をなさるおつもりで…?」


「まぁ見てな。」


少し経ち、山の上からドーン!と大きな音が聞こえると、辺りは明るくなった。


花火である。


ひゅ〜〜〜〜…

ドーン!

パラパラパラ…


ひゅ〜〜〜〜ひゅ〜〜〜〜

ドーン!ドーン!


「こ、これは…お狐様いつの間にこんな花火を!?」


「これは本物じゃない、私の虚術さ。ほら、村全体に認識使ったじゃないか。アレみたいな物で村全体に花火の幻を見せてるんだ。」


「綺麗な花火ですだ。お狐様の心は村人皆の心に届いた事だと思います。」


その花火は祭りの最後を彩り、村人は祭りに参加出来なかった人々も含めて全ての村人が見る事となり、その美しさ、鮮やかさは後々まで語り継がれたと言う。






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