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第9話 夢魔ちゃん、妖狐ちゃん、仔猫ちゃんが浴衣を着てみました♪

長治にかけられた一瞬の認識についての説明をする為に、あるてと安二は長治の所へと向かうのであった。

後の人達はお留守番。

私の名はあるて。今、安ニ少年とともに父親でこの村の村長(むらおさ)である長治(おさじ)さんの所に向かっている最中であった。



「なぁお狐様、父ちゃんに罰を与えるのか?」


「はっはっはっ、安ニ、心配しなくてもそんな事しないから安心するとよい。ひいらぎの認識が結果として長治さんだけにかけられてしまったからな。経緯の説明と、まぁどちらかと言うと私が謝りに行くと言うのが正しいかな。」


「えと…、ひいらぎは悪くなくて、そうおいらが全部悪いんだ。だから父ちゃんにひいらぎの事悪く言わないでくれよ、ひいらぎが居づらくなるから…。」


「そんな事はしやしないよ。なあに、悪いようにはしないよから心配しなくてもいい。ひいらぎも良い友達を持ったな、安ニみたいな友達がいるなら私も安心だ。これからもひいらぎの事宜しく頼む。」



安二は少し不安がっているがそんな話をしていると長屋に到着した。





「お狐様、ここがおいらの家だ。」


入り口の引き戸をガラガラと開ける。


「父ちゃんいるかー?」


私は安二に続いて中に入ると長治(おさじ)さんは奥に座っていた。


「なんだ、祭りの手伝いから帰ってきてたんだね。」


と、安二が言い終わらないうちに後ろの私に気付いた長治さんがもの凄い勢いで走り寄ってくる。


「な…なんだよ父ちゃんまたかよっ」


安二は先程ひいらきと来た時に、話聞く耳持たずでただただ首根っこを押さえられてぐいぐいと謝らさせられたのだ。

またそれをやられると警戒し安二が身構えようとしていた時、私は長治さんを制した。


「長治さん、少し待ってくれないか、申し訳ないが私の話を聞いて欲しい。大事な話なのでな。」


「わかりましたお狐様、今茶を用意しますで少し待っとってくだせい。」


長治さんはぴたと動きを止め、奥に姿を消した。


「お狐様凄いや、ひいらぎは話すら聞いてもらえなかったのに、お狐様だと一発じゃないか。何か術を使ったのか?」


「いや、使ってないな。」


そう、私の使ったのは術ではない。

声に気を混ぜて頭に直接響くように耳の奥に言葉を送り込んだのだ。


少しして茶を持ち、長治さんが戻って来た。


「うちにはお狐様にお出しする様な上等な(ちゃ)ーもありせんですが…。」


「いや、馳走になろう。うん、充分美味しいじゃないか。」


私は出された茶を一口飲むとそう答えた。

こういうのは茶葉の良し悪しでは無く、その人の心で味が良くも悪くもなるのだ。

私は長治さんの入れてくれた茶は心がこもっていて本当に美味しいと思った。



一息ついたところで長治さんが話を切り出す。


「それで、オラに話と言うのは…。」


「うちのひいらぎが長治さんに(あやかし)の力を使ってしまったとの事で、それに付いての謝罪と経緯の説明を、と思ってな。」


「うーん、難しい言葉で良くわからねぇだども…。大体の事は分かってるでーな。」


「多分、お弟子様に術掛けられて家さ出たところで直ぐに解けたんだわ。で、訳分からねぇから訳聞こうと家さ入ろうとしたども見たら安二とお弟子様が抱き合ってるでねぇか、とてもじゃねえが入って行けなくて…で、立ち聞きしようとしてた訳ではねぇがお弟子様が安二に話してるのが聞こえてしまって…。」


「父ちゃん、ひいらぎがお弟子様でなくひいらぎとして見て欲しいって言ってたやつか?」


「んだ。」


「…って!あれ見てたのかっ!抱き合ってたんじゃないぞ、ひいらぎがしがみついてきただけだ!」


「でも安二、お()もお弟子様の事、好いておるんだろう?見てれば分かる。」


顔を赤くして黙り込む安二。

その様子を見た長治さんは一瞬ふふっと笑い、そして私の方を見ると真剣な顔つきになる。


「お狐様、オラはお弟子様がどういう方かはまだよぅ解ってねぇだとも、でも安二の人を見る目はしっかりしてるで、その安二がお弟子様の事を想っているならオラはそれを信じてやりていのです。」


「そうか…長治さんは全てを知っていて、その上で飲み込んでくれていたという訳か…。ありがとう、礼を言わせて欲しい。安二の人を見る目は長治さん譲りという訳だったんだな。」


「いえ、そんな大層なものではねぇで。」


「いや、(あやかし)であるひいらぎの事をちゃんと理解して見てくれている、それだけで私は安二や長治さんの事を信じたいと思っている。それにそう思わせるだけの理由もある。この私に出してくれた茶の味は私の心に染みたからな。この茶が入れれる人なら私はそれを信じたいのだ。」


「そんな言葉、私にはもったいなさ過ぎですだで…」


長治はそう言うと静かに頭をさげていた。




「そこで長治さんに折り入って相談があるのだが…」


私は話の本題へ入った。ここへはある目的があって来たのである。


「一口に認識と言っても色々あって、弱くかければ長治さんみたいに「ひいらぎは近所の村娘」と認識させるだけのものもあるが、強く掛ければそれはもう精神呪縛、文字通り洗脳と同じ効果があるんだ。もっともひいらぎは取り乱した長治さんに話聞いてもらいたくてその瞬間だけ効果があるだけの極弱にかけたみたいだが…」


「んだ。」


「でもそれはひいらぎの意思なんだ。元々特別扱いされたい訳じゃなくて皆と仲良くしたいだけ、ひいらぎはそういう子だからな。そこで長治さんに頼みがある。長治さんに掛けられた程度の認識を村人全員に掛けさせて貰いたい。」


「全員に認識を!?」


「そうだ、元々はひいらぎの為に安ニが発案したものなのだが、一瞬だけ認識をし、ひいらぎは村娘と心の片隅において置けるようにし、その後で長治さんが皆に説明をしてほしいんだ。」


「安ニが…考えただか…。そう言えば抱き合ってたときそんな事言ってたような…」


「だから抱き合ってたんじゃなくてひいらぎがしがみついて来ただけなのっ!」



少し考えた後で長治さんは了承した。


「お狐様のお弟子様とかの肩書きが無くても、うちの(せがれ)が認めた女子(おなご)なら私も信用しとります。安ニは人さ見る目は持っとりますで。だで、お狐様の仰る通りにしてくれて大丈夫です。」


「で、でもお狐様、認識し一人一人の眼を見ないとかけれないんだろ?なら村人集めてかけた時にお狐様が説明すればいいんじゃ…」


安二がふと疑問に感じた事を言葉にして入れてきた。

その質問に長治が答える。


「お狐様が説明したらそれは命令になってしまう…。だからオラが説明する。そういう事なんですだね?お狐様。」


「そういう事だな。長治さんが説明すればその部分が柔らかくなるし、あくまで強制ではなくて自由意志でお願いしたいからな。そしてもう一つの部分、普通は眼を見ながらでないといけないのだけど、私はここから村人全員に認識をかけれるんだな。なんと言ってもお狐様だからな。」


私は胸を張り、安二に冗談ぽくうふふと笑うと、その手に妖力を集める。

その十指には十の炎がゆらゆらと揺れだし、そして激しく燃えていった。

やがて、私の瞳の色が妖力で黄に染まる頃、激しく燃える炎は細かく分散し、村の隅々まで散って行く。

私はふぅ~っと息をつくと、その集中を解いた。


「終わったよ。一瞬だけの弱い認識を村人全員にかけた。後は長治さんが祭りの前にででも皆を集めて説明してくれればそれで大丈夫さ。」



「説明するのはいいんだけんども…、他のお弟子様のまいまい様や、お狐様まで村娘になっとりますが…?」


「………、長治さん、祭りというのは無礼講なんだよ、私もみんなと仲良くしたいじゃないか。」



私は一瞬の間を置いた後にそう言うと、ちょっとはにかんで笑った。




「あと長治さん、もし差し支えなければこのまま祭りの最中も安ニをひいらぎに付けてやって欲しいのだが…。横に普通に友達として接している安二が居れば他の村人達もひいらぎに対して村娘として接し安いと思うし、ひいらぎも一番頼りにしてると思うしな。」


「オラは構わねぇですだ。安二、出来るだかん?」


安二はそれにニッと笑って答える。


「当たり前だ、ひいらぎは友達だからな。」






そして帰り道


長治さん説明の為に村人を集めに行った。私は安二と抹茶のログハウスに向かっている。


「なぁお狐様ってやっぱり凄いんだな、ひいらぎに出来なかった村全体の認識とかも簡単に出来て…。さすがひいらぎのお師匠様で神様なんだな。」


「そういう訳でもないぞ。それぞれの特性というものがあってな?ひいらぎの使う認識が個々の瞳に焼き付けて、眼で見て判断してその者を認識するのに対し、私のは虚術と言う心の幻術みたいな物で、心にそう錯覚させる物なんだ。浅くかけたから効果はひいらぎのものと変わらないが違う術なんだよ。私のは攻撃する術だけどひいらぎのは仲良くする為に使う術、心を壊すなら私のが上だけど、心に入り込むならひいらぎのが上なんじゃないかな?」


安二は分かったような、分からないような…という顔で聞いている。


「それに、ひいらぎはその自然体で仲良くなる事に関してはズバ抜けて凄いぞ?誰とでもすぐに友達になるしな。」


今度はそれは分かる、と言った感じでうんうん頷いている。


「お狐様、ひいらぎは認識以外はどんな事が出来るんだ?」


「うーん、戦闘時のものも色々とあるけど、通常時のものでなら…魅了とかがあるかな?」


「どう言ったものなんだい?」


「文字通り相手を魅了して虜にするんだ。簡単に言えば自分を好きにさせるのさ。」


安二はハッとして下を向く。何かを考えている様子だ。

でも私にはその考えている事が何となく分かる。


「安二、ひいらぎが安二に魅了を…妖術なんかを使うと思うか?それは紛れもなくお前の心だよ。」


「そうだな。」


安二は少し赤くなりながら笑った。


「お狐様、ひいらぎには…内緒だぞ?」


「ああ、判っているさ」









2人が歩くその影を遠くから見ている目があった。


「あれが東洋の妖狐…さすがにドラキュラ様を倒しただけあって強大な妖力ですね…」


「でも弟子の猫の方はまだ未熟…狙うならそっちの方ね……」


「あの猫の少女とても可愛らしいですからね、nya様それでそっちを狙おうと…」


「違うわDELI!このロリコンがぁっ!」


その目の主はいつの間にか居なくなっていたが、私はその時それに気付いていなかった。









◇◇




ここは抹茶さんのログハウス、出掛けたあるてを待っていた(まいまい)、ひいらぎ、抹茶さん、レナさんの4人が居る。

時間は太陽が傾きかける少し前位、場所によっては露店が営業を開始する所も出てきて賑やかな声も聞こえ始めてきている。



ガチャリと音を立ててドアが開くと、あるてと安二君が入ってきた。


「あるて様お帰りなさい。」


と、飛び出してきたのはひいらぎである。


「お?浴衣じゃないか。どうしたんだ?」


「へへー、可愛いでしょ。」


見ると、ひいらぎは薄い水色を基調として浴衣を着ている。

嬉しそうにくるっと一回転して見せていた。



あるて様の脇にいた安二はひいらぎの浴衣姿にドキっとし、つい「か、可愛い…」と呟いてしまっていた。



「だからドキっとしてねぇよっ!独り言でおいらの思考を勝手にねつ造するなー!」


「おかしいなー、思ってると思ったんだけどなぁ~、思ってないの?」


「しっ…知らねぇよっ!可愛いとかそんな事思う訳ないじゃないか!」


本当(ほんとー)かなぁ~?」


ワザとらしくそっぽを向く安二君の顔の先にのぞき込んだひいらぎはニヤニヤと笑っている。


「そ…そりゃ少しは似合ってて可愛いとか思ったけど…少しだけなっ…」


「え…?あ…、ありがと…。」


安ニ君の思いがけないカウンターを喰らってドキッとしたのはひいらぎの方であった。

そして二人とも顔真っ赤にしてうつむいてしまう。初々しい限りである。



そしてその後、ひいらぎに続いて出てきたまいまいは、淡い桃色を基調とした柔らかな色彩の浴衣を着ていた。


「この浴衣はレナさんが私達にと用意してくれたのよ、あるて、あなたの分もあるそうよ?」


「ほぉ、私のもあるのか。」


と、受け取った浴衣は薄い黄色地の浴衣である。


「レナ、すまないな、気を遣わせてしまって。」


「いえいえそんな…折角のお祭りですので是非お狐様達にも浴衣を着て頂こうと思いまして、ただ時間か無かったので私のものを寸法を直しただけの物で申し訳ないのですが…。お狐様は狐と言う事でそこから黄色基調の物を用意させて頂きました。」


「ありがとう、気に入ったよ。ところで私が狐で黄なら、まいまいの薄桃とひいらぎの薄水色にも意味はあるのかな?」


そこに口を挟むのはひいらぎである。


「あるて様が狐イエローなら、まいまいは夢魔だから頭の中は真っピンク、そして冷静沈着で聡明な私はブルーと言う訳ねっ♪」


「ひいらぎぃぃぃ、真っピンクって何よ、アンタが冷静沈着聡明な訳ないじゃない!放っておけばどこでもピューって飛び出して行っちゃう青信号ブルーよ!」


と、グーでゴチンと頭を小突くと、ひいらぎは頭を抱えてうずくまった。

全くひいらぎは…怒られるのが分かっていてもついつい言ってしまう余計な一言のおかげで今まで何度このやり取りをした事だろうか…



あるてはそれを見ながらくっくっくっと笑いながら

「ひいらぎが青信号ならそれを止めるまいまいはさしずめ赤信号だな。」

と、一言。


「なにあるて、上手いこと言ったつもりなの?それならあるても危険で注意が必要な黄信号って訳ね。」


そんなやり取りで笑っていたのが抹茶である。


「まいまいさんと、ひいの色はですね、まいまいさんは包容力ある大人の女性的なイメージで柔らかい桃色を、ひいは暑いの苦手そうだから涼しげな水色にしたわけですよ。ね、レナ。」


それに対して笑いながら頷いているレナにコッソリ耳打ちする抹茶。


(でも本当はあるて様は油揚げの黄色、ひいはレナの作ったときの生地の余り、単にのこってた桃色がまいまいさんの…なんだよね?)


(もうjebfjsbd、それはナイショっ!)


レナさんは笑いながらコッソリ抹茶の尻をつねっていた。





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