5・現場
爆発音は麓はおろか、街にまで届いた。付近の住民は、『蜘蛛取山の誰も足を踏み込まない様な場所で、火の手が上がるのを見た』と証言した。
数日後、警察が現場に到着して見たものは、辺り一帯に散らばった粉々になった何かの破片だった。科学捜査研究所の分析によると、散らばっていたのは生きていると言えるか判らないほど古い、生体組織の一部だと判明した。
現場からはC―4火薬の反応、おびただしい鉄球が発見され、クレイモア地雷が使用されたと推定された。同時に粉々になった人骨が発見され、DNA鑑定によってそのうちの幾つかが捜索願の出された行方不明者のものと一致した。中にはとても古いものもあったため、全員の身元は判明しなかった。
「うん?」
捜査員は立ち木にめり込んだ鉄球が何かを挟み込んでいることに気が付いた。それは写真のようだったが、グニャグニャに歪んでいて絵のようにも見えた。何が写っているかはよく判らないので捜査員が目を凝らすと、それは制服を着て微笑む駅員に見えた。
しかし捜査員には、その微笑んだ駅員の歪んだ姿は、人ではない何か奇妙なモノが微笑んでいるように見え、捜査員は吐きそうに腰をかがめた時、視線の先に何か四角いモノの残骸が目に入った。
「おい、こっちに携帯の残骸があるぞ!」
◇
おびただしい鉄球の中から携帯電話の部品が発見され、奇跡的にメモリーが解析されて、持ち主を特定することが出来た。
医師の自宅を訪れた捜査員はSNSに投稿された医師の日記を発見したが、内容はとても常人が信じることの出来ない話だったので、捜査線上に浮かぶことは無かった。
ただ、医師が何者かに誘拐され殺された恋人の仇を討つために深夜尾久多摩駅に行ったことは、多くの捜査員が知っていた。何といっても駅の防犯カメラに、医師が得体のしれない黒いものに乗り込む姿が捉えられていたからである。
机の上には、恋人と仲睦まじく肩を寄せ合って微笑む医師の写真が残されていた。それを見つけた捜査員は、あの奇妙な駅員の写真を見た捜査員だった。医師と恋人の写真を見て、捜査員はあの駅員の写真が人ならざる者の姿であったと確信した。
結局、消息不明のまま(多くの捜査員は跡形もなく粉々になったと知っていたが)医師が銃刀法違反容疑で書類送検され、自爆した場所に駅があったことなど誰も知るよしもなく、この不思議な出来事は幕切れとなった。