2・男
『なんて古ぼけた駅だ』と思った。
壁は黒ずんだ板張り、木製の向かい合ったベンチが一組置いてある。あまりに小さい改札横の駅員室、時代がかった看板など、とても令和の時代の駅には思えない。その横にはこの駅で撮影したらしい写真が飾ってある。
駅員は自分が持っている銃に心底怯えていて、引きつった顔でベンチに腰掛けている。
「や、やめてください! 撃たないで!」
「いいでしょう……ちょっと話を聞いてもらえますか?」
僕は駅員に語り掛けた。駅員は怯えながらも、僕の顔を見つめる。僕は左手で胸ポケットからスマホを取り出して、駅員に僕らが写った待ち受け画面を見せる。
「この人を見たことは?」
「し、知りません! そんな人のこと!」
駅員は、ろくに写真を見もしないで慌てて答えた。その反応に、僕はイラッとしたが、平静を装ってスマホをポケットに戻す。
「僕には恋人がいて、来年の春に結婚する予定でした。彼女は大手雑誌社でネットニュースの記事を書くライターで、毎日細かいネタを掴んで来ては記事を書いていました。今年の夏、不思議な話を彼女は耳にしました。何人もの人々が尾久多摩駅で行方不明になっているという話です」
目の前の駅員は何を言われているか、さっぱりわからないと云った顔でこちらを見ている。僕はイライラがつのり、散弾銃を駅員に向け直した。
「や、やめてください! 撃たないで!」
小雪もちらつく冬の夜だというのに、駅員は珠のような汗をダラダラと流していた。だが、僕は銃を両手に抱え、話を続ける。
「僕は彼女から話を聞いても、よくある都市伝説だと言って取り合いませんでした。僕の反応に、彼女は証拠を掴んでくると言ってある夜出かけました。……そして……彼女もまた行方不明になったんです」
まだ駅員は話の内容が解らないようだ。困惑した表情でこちらを見ている。
「そ・それが一体、私と何の関係があるというのですか?」
駅員の問いかけを無視して、僕は話を進めた。
「彼女が行方不明になった僕は、気が狂ったように探しました。彼女の足取りは予想通り、尾久多摩駅で消えていました。そこで僕は不思議な話を聞いたのです……深夜終電が終わるか終わらないかという時間に、二両編成の電車が現れるというのです。終電だと思って乗ってしまうと、乗客は行方不明になってしまう……そんな話です」
そこまで話した時、駅員はいきなり立ち上がると改札口の方に向かって走り出そうとした。僕は銃をしっかり肩付けすると、逃げる駅員の足を狙って散弾銃を発射する。近距離で発砲したので、あまり散らばらなかった散弾は駅員の両足の膝から下を吹き飛ばした。
「ぎゃあああああ!」
駅員は甲高い悲鳴を上げると、改札の手前でばたりと倒れた。その瞬間、僕は違和感を感じたが、動揺を見せずに駅員に話しかけた。
「人の話を最後まで聞かずに逃げないでください、無責任ですよ」
僕は決定的瞬間がいつ来るのか身構えながら、駅員のそばに歩いて行った。