プラグ交換
「それにしても、最近はタンクバッグは珍しいな」
「そう?兄からもらったんだけど便利よ」
「いまどきは、リアケースをつける人が多いんだがつけいないのかい?」
「いやよ、かっこ悪いじゃない」
「そういうもんなんだ」
土曜のお昼時。
母親から父親の勇二を呼んでくるように言われた山口貴司。
家業である山口モータースの店先からは父と誰かが会話している声が聞こえてくる。
店先をのぞき込むと、バイクを整備中の山口勇二。
その向こうには、別なバイクを前に座り込んでいる女性。
柏木洋子が、バイクに向かって何かの作業をしていた。
「お・・・親父!お客さんに何やらせてんだよ!」
慌てて父親に大きな声で注意する貴司。
それを聞いても、勇二はのんびりと答える。
「いや、プラグ交換って言われたんだが今手が空いていなくてね。そしたら、場所と工具を貸してくれたら自分でやれるっていうんだ」
柏木洋子も、振り向いて言う。
「プラグ交換なら何度もやったから大丈夫よ」
「そうみたいだな。なかなか手慣れた感じだよ」
だが、貴司はまだ信じられないという顔をして言う。
「で・・・でも、素人が整備して大丈夫!?」
「バイク乗りならこれくらいのこと普通やるわよ?」
あきれたように洋子は言う。
ええ!?大丈夫なのか・・?
バイクに乗らない貴司には、エンジンの整備を自分でするなんて考えられないことなのであった。




