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日本ワインに酔いしれて  作者: 三枝 優
第2章
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業務の見える化

「大体見えてきたわね」


 会議室に並べられた複数のホワイトボードの前に洋子は立って呟いた。

 そこにはびっしりと図が書かれている。


 山口貴司は疲れ果てて椅子にもたれかかっている。

 

 この図・・・PFDプロセス・フロー・ダイアグラムというらしい。

 〇の中に業務プロセスが書かれている。

 そこから矢印が出て□につながっている。

 □の中には書類の名前、もしくは何らかの文書名が書かれる。

 そして、その横に文書の主な内容が書かれている。

 そこからまた矢印が出て別な〇につながっている。


 その繰り返しでびっしりと・・・社内の業務が描かれているのだ。


 社内規定を調べたり、記憶をたどったり。

 わからないところは電話して聞いたり。

 そうして、ようやくすべての業務を書くことができた。

 そこまで来るのに、大変な苦労をした。

 貴司は自分がいかに社内の業務を理解していなかったかと思い知った。


「そうでしょう・・・ようやく、これでシステム開発にとりかかれますか?」


 すると、くるっと貴司のほうに振り返って洋子はあきれ顔で言った。


「まさか、まだまだよ。私が言ったのは、業務で問題あるところが見えてきたって言ったのよ」

「えぇ!?」


 貴司にはどこに問題あるか全くわからなかった。


「たとえばここよ」

 そういって営業から出た矢印。その先は”見積依頼”が調達部門につながっている。

「これのどこが問題なんですか?」


 見積依頼は貴司も何度も調達部門に出している。


 すると、洋子はホワイトボードを指でたたきながら・・

「普通に考えればこんなチープな書類で、調達部門が見積れるわけないでしょ」


 見積依頼には、見積る対象のものの名前と数、納入予定先や希望納期が書かれている。


「えぇ!? でも今ままでもその内容で見積もりが出てきてましたよ」

「だからよ・・・つまり、この文書以外になんらかの情報が調達部門に入っていないといけないの。その内容のオモテ化が必要よ」

「どうして、そこまでやらないといけないんですか?今ある文書の電子化じゃダメなんですか?」


 すると、大きなため息をつかれてしまった。


「いい?DXってデジタルトランスフォーメーションの略なのよ。ただ単にデジタル化するだけじゃダメで、業務に問題のあるところを変革しないといけないの」

「は・・・はぁ・・」

「とにかく、調達部門と打ち合わせをセッチングして頂戴」

「わ・・・わかりました・・・」


 早速メールを打とうとした貴司。

 追い打ちをかけるように洋子が言う。


「ところで、出していた宿題はそれそろできたかしら?」

「う・・・・・プロジェクト憲章ってやつのことでしょうか?」

「そう、プロジェクト憲章はとても重要なの。できてる?」

「・・・・まだです」


 洋子から出ている宿題。

 プロジェクト憲章というものを作るというもの。


 だが、貴司にはプロジェクト憲章というものは何を書けばいいのか、書いたところで誰の役に立つのか、ちんぷんかんぷんなのであった。

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