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日本ワインに酔いしれて  作者: 三枝 優
第1章 健司と美月
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朝帰り

(瀬戸さん視点)

寝起きで、まだ頭はぼーっとしていた。

布団から身を起こす。


キッチンでは、早乙女さんが何かと作っていた。


あぁ・・昨日は、泊ってしまったのか・・・

じゃあ、処女を卒業したのか?

まぁ早乙女さんならいいか・・・


ぼーっと、そう思っていたら早乙女さんが気づいて声をかけてくれました。


「おはようございます。”ようやく”起きましたね。気分は悪くないですか?」

「はい、・・・あの・・・」

「言っておきますが、変なことは何もしていませんからね。ほら、服もちゃんと着たままでしょう。」


あら、そうだったのですか。

確かに、昨日のまま服を着ている。

しわになっちゃった・・・


「朝ごはん食べますか?その前に顔を洗いますか?」

「あ・・・ハイ。」

「洗面所はこちらですよ。はい、タオル。」

「ありがとうございます。」

洗面所、綺麗に片付いている。

歯ブラシは・・・一本しかない。


「あー、クレンジングとかは無いのでごめんなさい。私の洗顔料でよかったら使ってもいいけど。」

「ありがとうございます。」


顔を洗って鏡を見る。

化粧水・・ないよね。

「化粧水とかありますか?」

早乙女さん、よく気が利きますね。

「ごめんなさい、持ってきていないのです。」

「あらら・・・男性用ならあるんですが・・・」

「うーんお借りしてもいいですか?」

「いいですけど・・大丈夫ですか?」

「ないよりはいいので・・」

「じゃあ、これどうぞ、乳液もありますけど。」

「ありがとうございます。」


しわになった服・・どうしようかしら・・


「あの・・もしよかったら・・・」

「はい、何ですか?」

「シャワー借りてもいいですか?」

「え・・・・・?」


ちょっと固まった。


早乙女さんは、顔を引きつらせながら・・

「え・・・と、着替えとかないですけど、いいですか?」

「はい、それは仕方ないです。」

「は・・・はぁ、じゃあバスタオルはこれを使ってください。」

「ありがとうございます。」


「あと、これも使いますか?」

アイロンのような道具。これ・・スチーマーだ。これがあれば服のしわが伸ばせる!

「ありがとうございます。ぜひ使わせてください!」

ほんとに早乙女さんは気が利く。

美味しいものをたくさん知っているし、料理もできる。

綺麗好きのようだし、家事もできそう。

それでいて、サラリーマンとして働いていて外車に乗るくらいの収入がある。

ちょっと年上だけど、その分頼りがいがある。

もしかして、こんな優良物件他にないのじゃないかしら。


瀬戸さんの中で、早乙女健司の評価は急上昇であった。


----

(早乙女視点)

まさか、シャワーを浴びると言い出すと思わなかった。

いったい何なんだ・・・


これは誘っている・・・ってことはあり得ないな。

とすると・・・


まぎれもなく天然だ。


早乙女健司の中で、瀬戸美月の印象は、駄々下がりである。

酔っ払いで、天然でわがまま。料理もできない。

評価として残念なポンコツとして認定されてしまった。


まぁ、朝ご飯くらい食べさせて送っていくか。

それで、もうかかわることも無いだろう。


----

「ありがとうございます。助かりました。」

一応、ある程度の化粧品は持っていたらしい。

しわだらけだった服もある程度元に戻っている。

「ご飯食べるでしょう?パンでいいかな。」

「はい、申し訳ありません。すっかりお世話になってしまって・・」

「はい、コーヒー」


----

瀬戸美月はコーヒーは苦手であった。

まぁ出されたから仕方なく飲んでみる・・・苦かったら、ミルクをもらおう。


え・・・

コーヒーを生まれて初めておいしいと思った瞬間であった。


食パンにバターとジャム。

あとは目玉焼きとトマト。

ちゃんとした朝ご飯である。


実家では、こんな朝ご飯は出てこない。


ちょっと感動しながら、ご飯を食べる。

「瀬戸さん、実家暮らしなんでしょ。泊ったらまずかったんじゃないですか?」

「うーん、なんとかなります。」

いざとなれば、ミキちゃんの家に泊まったことにすればいい。

いままで泊ったことはないけれど。

あとで、ミキちゃんに電話して口裏を合わせてもらおう。

「それならいいんだけど・・」

そんなことより、この美味しい朝ご飯を味わうほうが大事。

幸せそうにご飯を食べる瀬戸さんを見ながら、早乙女健司は”ほんとに大丈夫かぁ?”と考えていた。



「じゃあ、そろそろ行きましょうか。」

「はい、何から何まで申し訳ありません。ありがとうございます。あ・・・あと・・」

「はい、なんでしょう?」

「連絡先交換してくれませんか?」

にっこり微笑んで、瀬戸さんはスマホを出す。


顔を引きつらせながら・・答える。

「えーっと、連絡先?」

そうして、ガラケーを出した。


仕方なく、メールアドレスを交換した。


車を走らせて30分ちょっと。

それほど近くもないが、瀬戸さんの案内で何事もなく送っていった。

「ありがとうございました。楽しかったです。」

「いえいえ、では気を付けてくださいね。」

手を振って去っていくところを見送る。

うーん、なんか大変な週末だったな。

さすがに、もうこんなことは2度とないんだろうけど。


----

ちなみに、瀬戸さんのほうは大丈夫ではなかった。

瀬戸家では、娘が生まれて初めて無断外泊した上に、友達のミキちゃんのところにとまったと言い張った。

しかしながら、ワインとチーズのお土産の存在が、その信憑性を著しく低下させたのであった。

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