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日本ワインに酔いしれて  作者: 三枝 優
第1章 健司と美月
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武蔵ワイナリー 小川小公子/小川猫小公子/杉樽は及ばざるが如し(寝落ち)

「おじゃましまーす」

ニコニコとほほ笑みながら、玄関を入ってくる瀬戸さん。

私は、何本かのワインと保冷バッグをキッチンにおいた。

(ワインを全部は車から持ってこれなかった。)


「片付けるからちょっと待っててくださいね。」

リビングに散らかっている着替えや本を片付ける。

一人暮らしとしてはちょっと広めの1LDK。

家賃は安くはないが、なぁしょうがない。

「結構広いですね。」

「さぁ、どうぞ。」

とソファに座ってもらう。

「ちょっと待っていてくださいね。あと瀬戸さんが買ったチーズとかはとりあえず冷蔵庫に入れますね。」

そう言って、キッチンに入る。

冷蔵庫にチーズをしまう。

そして、自分用に買ったカマンベールチーズと、トマトをを取り出す。

あとは買ってきたピザも出そう。

ピザはオーブンに入れて温める。

その間に、トマトとチーズを切って、お皿に交互に重ねる。

エクストラバージンオイルを上からかけて故障を散らす。

皿の周囲にバルサミコ酢を数滴散らせば完成。

ピザも出来上がったようだ。


「お待たせしました。おつまみにカプレーゼとピザを持ってきました。」

「うわぁ、すごいですね、今作ったんですか?あっという間ですね。」

「まぁ、ピザはアトリエドフロマージュで買ってきたものを温めただけなんですけどね。」

「すごいですね、私は、全然料理できないので尊敬します。」

いや・・・料理というほどのことはしていないんだけど・・・

「さて、ワインの試飲ですね、酔っ払うと大変なのでちょっとずつですよ。」

「はい!楽しみです。」

まずは、先ほど行った埼玉県小川町の武蔵ワイナリー。小川小公子から。

瓶の封を切り、《《ふたを開けて》》からワイングラスに指一本分ほどだけ注ぐ。

「この栓。ガラスなんですか? きれいですね。」

「そうなんですよ、珍しいんですけどね。」

このワインのふたはガラス製。コルクやスクリューキャップではない。

非常に珍しいものだ。

「さぁ、飲んでみて下さい。」

「ありがとうございます。」

ニコニコと笑って、ワイングラスを受け取る。


笑顔はかわいいんだけどなぁ。

先ほどまで、助手席で駄々をこねる頑固な女の子ところっと変わっている。


「すごい、美味しいです。なんていうか果物感がすごいです。渋くも酸っぱくもないし。でも甘すぎなくて。」

「さっきのジュースと比べてどうですか?」

「香りがもっと華やかです、味も結構変わるんですね」


「じゃあ、こちらもちょっとだけ飲んでみます?」

「はい、ぜひお願いします。」


同じワイナリーのラベルがそっくりなワイン。小川猫小公子。

こちらは金色のスクリューキャップだ。


「このワインはさっきのワインと同じ原料なんですけど。違うところで作られているそうなんですよ。」

じつはどちらも委託製造されたワイン。武蔵ワイナリーはできたばかりなので、まずは委託製造で作ったらしい。

こちらも新しいグラスにちょっとだけ入れた。

「いただきます。・・・やっぱり凄く果物感があります。あれ?」

「どうしました?」

「さっきの、もうちょっと飲ませてもらえませんか?」

「いいですよ」

ちょっとだけ、グラスに注ぐ。

それぞれのグラスを飲んでみて、首をひねっている。

「微妙に違うんですね、両方の見比べないとわからないくらいですね。」

「まぁそうですね、同じ原料でも微妙に変わるのが面白いところなんですけどね。」


カプレーゼを食べながら答える。

やはり、アトリエドフロマージュのチーズはおいしい。

賞味期限が短いから早く食べないといけないのが残念だ。


瀬戸さんもカプレーゼを食べる。

「うわぁ。おいしいですね。こんなおいしい料理をすぐ作れちゃうんですね。ワインにも合います。」

「いや、これはチーズがおいしいんですよ。」

「もうちょっとだけ・・こちらのワインいただいてもいいですか?」

小川小公子を指をさす。どうやら気に入ったらしい。

「ちょっとだけですよ。」

グラスに注いだワインを飲み、カプレーゼを食べる。

「ほんと、とっても美味しいです・・」

それはよかった。

さて、そろそろかえってもらおうかな。

送っていくためにも、《《私は全く飲んでいないんだが》》。

「じゃあ、そろそろ・・・」

「そういえば、さっきのワイナリーでもう一種類買っていましたよね。それはどんなワインなんですか?」


やばい・・


「えーっと、”杉樽は及ばざるが如し”というワインですよ。」

「へえ、見せてもらってもいいですか?」

しぶしぶ、キッチンからワインの瓶を持ってくる。

「へえ・・・きれいなラベルなんですね。」

独創的な絵が描かれている美しいラベルである。実はそのラベルの2種類あり、それぞれ異なる絵が描かれている。

「これも、小公子で作られているですね。」

「そうですね、このワイナリーの特徴ですね。」

どうにかごまかして、帰らせようと考える。どうしたらいい・・・?


「あの・・・このワイン、ちょっとだけ飲ませてもらえませんか?」

まじか・・・

せっかく2種類のラベルをそろえたのに・・・


「だめですか・・・?」

上目遣いにうるうるとうるんだ瞳で見上げてくる。

結局、開けることになってしまった・・・


「ぜんぜん違う味なんですね。」

「このワインは、名前の通り杉の樽で熟成しているから、その成分が香りや味にしみ込んでいるんですよ。」

「ちょっと渋い?でもおいしいです」

そう言って、小川小公子と飲み比べている。

もう結構飲んでいるのでは?


嬉しそうにワインを飲む女性の前で素面でワインを飲むことができない。

何の拷問なんだろう?


瀬戸さんは、ようやくワイングラスをテーブルに置いて、ソファに深く座りなおした。

「ほんと美味しかったです。それに、今日は楽しかったです。」

「それはよかった。」

「ほんとに、ありがとうございます。」

瀬戸さんはそういうと、にへら っと笑った。

そして、うつむいた。


「瀬戸さん、そろそろ帰りませんか?送っていきますよ。」

返事がない。

「瀬戸さん?」


すーっ・・・・すーっ


あ・・・・この娘、寝落ちしやがった。





そのあと、起こそうとして何度も呼び掛けたが、全く起きなかった。

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