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日本ワインに酔いしれて  作者: 三枝 優
第1章 健司と美月
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サンサンワイナリー メルロ クラレット 樽熟成 2015 ③

 ”ここは・・・気持ちがいいところだな”

 売店の外のベンチに座って、ミネラルウォーターを飲みながら思った。


 アトリエ・ド・フロマージュ。

 偶然立ち寄ったところは、チーズ工房だった。

 トイレを借りて、まずはミネラルウォーターを購入してベンチで飲んでいるところだった。

 ここにはカフェやレストランもあるようだ。


 売店をちらっと眺めた限りでは、さまざまなチーズを販売しているようだ。


”明日の朝食用に買って行ってもいいな”

 そう思った。


 それにしても、ここは眺めが良い。

 広々とした傾斜地。店の前には果樹園が広がっている。すぐそこに見えるのはリンゴの木らしい。


 さわやかな高原の風が吹き抜けている。

 いつまでも、ぼーっと眺めていられる。


 まぁ、まずは何か自分へのお土産を買って行こう。


 再度、売店に入る。

 ほんとに様々なチーズがある。

 熟成されたもの・フレッシュチーズ。ピザなんてものまである。


 壁には、ワインのボトルが並んでいる。

 フランスやイタリアのワインに混ざって・・長野産のワインなんてものもあるのか。


 その時、目に入った。


 『限定品。アトリエ・ド・フロマージュの無能屋の句ブドウを使ったワインです』


 そこにあったのは、サンサンワイナリー メルロ クラレット 樽熟成 2015

 

 限定品か・・無農薬のブドウを使っている?

 チーズにあうかもしれない。


 試しに、そのワインを手に取る。

 赤ワインらしいので・・熟成チーズとピザを買って行こう。


 それまで健司は日本のワインをほとんど飲んだことはなかった。飲むとしてもフランスのワイン。主にボルドー。

 

 そのワインを手に取ったのは、ほんの偶然。


----


 ワインとチーズを購入して、売店の外に出た。

 そろそろ夕暮れ勝ち近づいてきている。


 もう一度、ベンチに座る。

 空の色がだんだん変わってくる。


 風が果樹園に生えている草を揺らす。

 土の香り・・草の香り・・



 あぁ・・・この景色は美しいな。




 久しぶりに、そんな気持ちになった。



 いろいろあった健司の心はすさんでいた。

 でも、ようやく景色が美しいと思うようになった。

 この景色がそうさせてくれた



 また、ここに来よう。

 そう思った。



----


 その夜。健司は家に帰ってきてワインを開けた。

 チーズも準備。


 手持ちのワイングラスに注いで色をみる。

 ガーネット色の美しい液体。


 香りを嗅いでみる。

 フルーティーでさわやかな香り。

 ボルドーとは違った雰囲気。


 そして、口に含んだ。



 口から鼻に抜けていく。

 まるで、花束のような華やかな香り。


 その体験は、初めてだった。


 あぁ・・こんなワインもあるんだな。



 その日、ワインを一瓶飲み切ってしまった。

 そこまで美味しいと思ったのは初めて。



 この日以降、健司の休日のドライブは少し変化した。

 パソコンで事前にワイナリーを調べる。


 今までは、目的もなく車を走らせていただけなのだったが、この日以降はワイナリーに立ち寄ることを目的にし始めた。


 そう。

 このワインによって、健司は日本ワインにはまっていくことになったのだ。


----


「へぇ・・そんなことがあったんですね」

「あぁ、そうなんだ。だから、このワインには思い入れがあるんだ」


「そういえば、このワイン2017年のもありますよね」

「そうそう、最近リリースされたものでね。結構味が変わっちるんだよ」

「そうなんですか、今度飲ませてください」

「そうだね、飲み比べてみよう」


 健司はワイングラスを上げて、その色を眺める。

 相変わらず美しい色。


 このワインによって、健司は再び立ち直ることができたような気がしている。

 感謝の念を覚えつつ、香りを楽しむのだ。

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