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第三話 ③

 そうだ、セクハラをしよう。

 俺はきっと頭がおかしくなったのだろう。立派に犯罪になる行為を「そうだ、京都に行こう」と、同じノリで言ってしまったのだから。

 いや、でもっぱり、考えたらこれくらい決定的なことをやらないとだめだな。いくら血を分けた親子でも男と女。あれでもたぶん思春期ぐらいは経験しているはずだから、いや、仮に経験していなくても、女としての感性が備わっているのなら男に体を触られるのに抵抗を示すはずだ。うまくいけば「私のお父さんがこんなスケベだとは思わなかった!」と、幻滅して出て行くに違いない。俺だっていくら女の子大好きだからと言って、誰でもいいというわけではない。一応俺の娘ってことになっているし、そういうことするのはこっちだって抵抗があるし、スケベ親父のレッテルを貼られるのも不本意だが致し方ない。そもそも、あんな無人のジャングルで逞しく育ってきたような野生児なんざ眼中にもねぇ。論外だ。とにかく、もうこの手しかない。俺は縁側で横向きに寝そべっている正彦にずんずん近づいていった。まぁ、セクハラって言っても、ちょっとケツをぺしんっと軽く叩く程度だからな。なに、あのくらいの年の女はそれくらいでも必要以上に激昂するもんさ。普段は自分から胸やら足やら出しまくっているくせにな。世の中矛盾と理不尽だらけだ。大丈夫だ。今度こそきっとうまくいく……! そう自分に言い聞かせていた矢先、グサッと足に何かが刺さった。

「いってぇっ!」

 その突き抜けるような痛みに刺さった方の足を反射的に上げた瞬間、バランスを崩してしまいそのまま二、三歩おっとっと、と弾んで派手にこけてしまった。足を上げた時キラッとしたものが一瞬見えたが、どうやらさっきの正彦の暴挙に暴れて逃げ回った時にコップが壁に当たって割れたから、たぶんそれだ。ちゃんと全部掃除機で吸ったつもりだったのに。……くそっ、とんだハプニングだ。もう本当にろくなことないな。仕切り直すため起き上がろうと手に力を入れた時、右手にやわらかい感触が広がった。なんだろうと思い、そのちょっと懐かしい、身に覚えのある感触にちょっとの幸福感を覚えながら右手に顔を向けた。しかし、目に映った光景に俺はそのわずかな幸福感と共にサーッと血の気が引いた。なんと俺の右手は正彦のケツの上にあった。どうやら転んだ拍子に正彦の上に覆いかぶさってしまったらしい。ちょっと触る程度のつもりだったのに、俺の手は正彦の尻をしっかり鷲掴んでいた。

 ゆっくりと、正彦が俺の方を見た。

 俺もゆっくりと正彦に顔を向けた。

 そして、正彦はいきなり立ち上がると俺の襟ぐりをガっと掴み、どこにそんな腕力があるのか、そのまま俺を放り投げ壁に叩きつけた。思いっきり背中を打った痛みのせいで蹲っている俺に正彦は跨り、あっというまに身包みを剥がしていった。抵抗する間もなくパンツ一丁の俺をバンザイの格好で、いつのまに取りに行っていたのか、両手首足首をガムテープで身動きできないよう何重も貼って固定した。しかも貼りつけた上からゴルフのピンで止めるという徹底ぶり。

「あの、正彦? 何する気?」

 ここまでがあまりにも早技過ぎて、されるがままになっていた俺はおそるおそる尋ねた 。当然返事は返ってこない。ない代わりに、正彦は俺の四肢を固定するのにも使ったガムテープを適当な長さに千切ると、なんとそれで俺のすね毛をぶちぶちっと抜き出した。

「ぎゃあああああああ‼」

 とてつもない痛みが俺を襲った。またそれが無駄に粘着力が強力なやつだから異常に痛い。さっき踏んだガラスの破片の痛みがかわいく思えるくらいだ。この歳にもなって痛すぎて泣くなんて恥ずかしいことだが、痛すぎて泣いた。

「す、すまん! 正彦! 悪かった! ゆ、ゆるし……いっイテデデデっ‼」

 いつも以上に聞く耳持たず、正彦は無言で黙々と俺の毛をべりべりべりべり皮膚から引き剥がしていった。もうこれは「抜く」と言うより「剥がす」だ。毛根ごともぎ取られる勢いだ。ガキの草むしりのようにガサツ極まりないが、しかし、根こそぎ取りつくしてやろうという執念はしっかりと伝わってくる。あまりの激痛に半狂乱になって喚いたが、四肢をがっちり固定されているためじたばた暴れることもできず、唯一動く首を縦横無尽に振り乱した。振り乱し過ぎてうっかり筋違えてしまい、違う痛みがプラスされてしまった。今体中を襲う痛みに比べたら微々たるものだが、俺のばか!その間も正彦はすね、太もも、腕と、毛という毛をどんどん引き剥がしていった。もー、本気でやめろ!これから薄着の季節なんだぞ‼ツルツルも嫌だが、芽が出てきだした時どうすればいいんだ!? 嫌だ! 想像しただけでかっこ悪い! 地味にかっこ悪い!!女ならまた剃るなり抜くなりすればいいだけの話だが、そもそもそんなことする必要がない男はもう自然の流れに任せるしかないじゃないか!

 最後に脇を抜き終わると、正彦は俺の腹の上にどかっと俺の顔に背を向けて座り、今日こそは追い出す!と、気合い入れるために穿いた勝負パンツに手をかけた。何をされるのか悟った俺は、真っ青になった。

「や、やめろっ正彦……やめてくれ!」

 普段は隠している場所だから別に気にしなくてもいいのかもしれないが、そういう問題じゃない。それはだめだ! そこはだめだ! 唯一動く首を、筋違えてしまったことも忘れて力の限りブンブン振って必死に正彦の背中に訴えかけた。俺の最低限の必死な抵抗も虚しく、下ろしたパンツから現れたものに何の躊躇もなく正彦はゆっくりと千切ったガムテープをしっかりと貼りつけた。そして、勢いよく上に向かって引き剥がした。

 梅雨時なのによく晴れた昼下がり、俺の断末魔が轟き渡った。

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