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第三話 ②

 作戦変更だ。まさかあいつがあんなに貯蓄家だったとは……。とんだ大誤算だ。ていうか、あいつの金の使い道ってなんなんだ? たいして使うことがないからあんなに貯まってるのか? あと今気付いたが、俺の金の源泉親父なんだから仮に成功したとしてもすぐにバレるわ。逆に成功しなくてよかったのかもしれない。

 とにかく、作戦変更だ。他に何かいい方法がないだろうか? 俺があれこれ悩んでいると、正彦により点けっぱなしにされたテレビから今夜放送されるヒューマンドラマの予告が流れた。いきなり胸の痛みを訴え倒れた母を連呼し涙する娘に、「もう、いいの。私、幸せだったわ」と言って息を引き取る場面、それを見て俺は「これだ!」とひらめいた。うまくいくかわからないが、一か八かやってみるか! 何事もまず行動を起こさなければ結果は付いてこないものだ。

 ちょうどその時、正彦がトイレから帰ってきて、テレビの前に座った。早速、俺は少し離れたところで「うっ!」と唸り、派手に倒れた。ちょっと痛い思いをしたが、己の明るい未来のためならこんな痛み屁でもない。薄く目を開いた。まだ目線も体もテレビを向いていた。少しの苛立ちを覚えて、今度はわかりやすく「ぐわぁー!」と無駄にでかい声で叫びながらのた打ち回ってみた。じたばたすること数分、やっと正彦はこちらを振り返った。倒れて唸っている俺をしばらく眺めたあと、よいしょ、と腰を上げ、速くも遅くもない速度でこちらに近づいてきた。ほぼ予想していた通りの反応だったから別に文句を言うつもりなどないが、一言だけ言わせてくれ。走って来いや。

 とは言え、やっとこちらに興味を向けてくれたのだ。言いたいことをなんとか飲み込み、ぜえぜえ息を吐きながら途切れ途切れにいかにもな感じを装って作戦を続けた。

「す、すまねぇ、正彦。今まで黙っていたが、実は、実は俺は……もう、長くはないんだ。いつ死んでもおかしくないんだ」

 そんな俺の話を、腰をきれいに直角に曲げて、正彦は俺を上から覗き込むようにして聞いていた。いきなり倒れた、しかも命の危機に瀕した人間に対して、なんて緊迫感の欠片もない対応なんだ。最初から自信があったわけではなかったが、必死で演技をしているこちらが馬鹿らしく、且つ、虚しくなるだけの反応だった。しかし、今さら元気いっぱいな姿は見せられないのでこのまま突っ切るしかない。

「が、かはっ! ぐえっごっごふ、ふんんんっ……! えふんっ、んんっ……は、ははっだめだ、もう寿命だな。俺は、これからこの家に一人で静かにお迎えを待つとしよう。だから、おまえはおとなしく、親父んとこに帰れ。老い先短いが、あの通り無駄に元気だ。そして金も、あ……る」

 そう言い終わるとすぐ、俺はガクッと唐突に気を失ったふりをした。最初の咳を勢いよくやり過ぎて危うくむせそうになったが、なんとか耐えた。俺が気を失ったふりをした瞬間、しゃべってるのはテレビだけでそれ以外は静かだった。あまりにその状態が長く正彦はどうしたのかと気になり、そーっとまた薄く目を開いてみた。すると狭い視界の先で、別段焦ったふうもなくスタスタとその場を立ち去っていく正彦の姿が見えた。

 あれ? 成功? これってもしかして成功? あまりにもあっさりとし過ぎてちょっと悲しくなったが、さっさと出て行ってくれるのはありがたい。一時はどうなるかと思ったが、こんなにすんなりいくなら最初からこの方法でいけばよかった。わざわざ咳き込む演技まで加えたのが無駄にならずに済んだ。でも、やっぱりせめて、こういう事態なんだから救急車ぐらいは呼ぼうか? いや、本当に呼ばれたらまじで困るけども。なにはともあれ、なんとか成功したのだ! やった! バンザイ!! 飛び上がって喜びたいところだが、今それをしてしまうとすべて水の泡だ。せめて玄関のドアが閉まる音がするまで待とう。

 そう再び目を閉じた俺の顔に、突如べちゃっと何かが当たった。びっくりして完全に目を開けると、俺の顔に水でぼとぼとになったタオルが乗っかっていた。状況を把握しようと起き上がった瞬間、後ろから口に体温計を入れられ、いきなり何かで首を絞められた。微かに香ってきたツンッとした臭いで、それがネギだということがわかった。

 いや、風邪じゃないから! 病気だから! 俺が患っている、ことにしているのは病気だから! 今どき風邪すらこんな都市伝説みたいな治療法で治さないから! ていうか、これ明らか治すためじゃなく、殺すための締め具合だよな!? やめろ! ばか! く、苦しい! 死ぬ! 死ぬー‼

 数分後、俺は一一九番に「助けてください‼」と、電話で叫ぶことになった。

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