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第三話 ①

 考えろ。考えるんだ。どうやってこいつをこの家から追い出すか!

 あれから早いもので三週間経った。いい加減ぐったりだ。あいつが来てからというもの、俺の生活はめちゃくちゃだ。めちゃくちゃな奴にめちゃくちゃにされているのだから当然だ。毎朝乱暴に、しかも強制的に起こされるし、一日3回は何か物を絶対破壊されるし(一昨日は美優ちゃんからもらったロレックスの時計と、聡子の手作り湯呑みと、福引で当たった花瓶を壊された)。そして何より、自由がなくなった。今までは好きな時に好きなように遊び歩けたし、家にいる時もガーデニングや読書に勤しんだりと好きなようにくつろげたし、丸一日家に帰らない日もあれば丸一日家にいる日だって珍しくなかった。それが今はどうだ。四六時中家事と正彦に追われ襲われ、唯一の外出も目的地が主にスーパーという、まるで専業主婦のような毎日を送っている。

 そんな生活に我慢できなくなったある日、行きつけのキャバクラのNO1のミナちゃんから逆指名の電話が入ったのをいいことに、俺は家を飛び出した。久しぶりにかわいい女の子たちにちやほやされたのがうれしくて楽しくてうれしくて、調子に乗って朝帰りまでしてしまった。ツヤツヤピカピカに満たされて帰ってみたら、家の中が悲惨な事になっていた。俺がいない間一体何をしていたんだ? 聞くのも嫌なくらい悲惨だった。とにかく、この状態を作り上げた馬鹿野郎を怒鳴りつけようと口を開けた瞬間、「どこほっつき歩いてたんだ」と言わんばかりの見事なとび蹴りを喰らわされた。そんなわけで、余計迂闊に外へ遊び歩くことができなくなってしまい、それと同時に禁欲生活まで強いられることになってしまった。よりにもよって一番奪われたら困るものを……。あぁ、恋しい……。女の子が恋しい……。女の子と暮らしているはずなのに女の子が恋しい。

 ――だめだ。本当にこのままではだめだ! 一刻も早くどうにかしないと、このままでは俺の頭も体もイカレてしまう! この家も生活も金も俺だけが自由に使っていいものだったはずだ。それをいつの間にか、あんな突然湧いて出てきた珍獣に主導権を握られ振り回されている今の現状ってなんなんだ!? あの旺盛な食欲のせいで食費も倍以上かかるようになったし、本当にこの生活は……。と、そこまで考えて、俺はあることに気づいた。――あ、そうか。その手があったか!

「正彦、話がある」

 早速俺は行動に出た。居間の真ん中で正座した俺に呼ばれ、菓子を食いながら正彦も俺の向かいに腰を下ろした。

「実は、もううちには金がないんだ。一銭もねぇ。明日から米一粒も食えねぇ」

 嘘だ。真っ赤な嘘だ。ほぼこいつの食費に消えたが、一昨日もらった小遣いがまだ十万ほど余っている。今日からって言いそうになったが、まだ今夜分の米が残っていたのを思い出したので訂正した。危うく墓穴を掘るところだった。

「だから、もうおまえ親父のところに帰れ。老い先短いが金はある」

 そう、うちは自給自足で生活をしているわけじゃないんだ。食うだけに関わらず、生きていくには何かと金が必要な世の中だ。そして金がないと腹いっぱい食えない。こいつにとっては死活問題だ。それに、こいつだって女だ。金の切れ目が縁の切れ目。金がなければ愛想を尽かしてさっさと見切りをつける、そういうしたたかさぐらいは持っているはずだ。

 そう踏んで実行したわけだが、事の重大さを理解しているのかしていないのか、相変わらず正彦はあぐらかいてスナック菓子を袋からバリボリ食っているだけだった。人が正座に腕組までしているというのに、緊張感というものがないのか。第一、おまえの最大欲求の危機だぞ。わかってるのか? 慣れない座り方のせいで足が痺れだし、なんで俺もあぐらにしなかったのだろうと後悔し始めた頃、口を動かしたまま正彦はすくっと立ちあがり、そのまま居間の隅っこに乱雑に置かれた自分のバッグを漁りだした。何のつもりだ? どーでもいいから早く出ていけという意を込めて見つめていると、周りをさんざん散らかして奴は戻って来た。そして、油にまみれた手ですっと俺に何かを差し出した。それは銀行の預金通帳で名義は正彦になってた。本当に何のつもりだ? とりあえず受け取り開けてみたが、あまりのゼロの多さにぎょっとした。俺が今までもらい続けた小遣いのトータル額といい勝負だった。一生とまではいかないかもしれないが、少なくともあと30年は余裕で遊んで暮らしていけるだけの金額がそこに記されていたのだ。相変わらず考えていることがさっぱり読めないが、「金がないならこっからおろしていけば?」ってことか? ……何その気前の良さ。単に食えなくなるのが嫌なだけなんだと思うが、本気か!? 本気なのか!? 男らしすぎるだろ! ま、眩しい! ふてぶてしくスナック菓子食ってるこいつが眩しい……! しかし、だからと言ってもらうわけにもいかないので、俺は黙ってそれを返した。

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