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第4話『小柳直和②』




小柳直和という男は、世間一般でいうごく普通の中年男性だ。


身長も体重も40代後半の平均ほど。髪の毛は白髪が混じり始めた。






ただ、子供2人がまだ幼いころに妻の「まどか」は3人を置いて逝ってしまった。直和にとって命に代わる大切な人だった。


彼女の葬式で、まだ死の実感もない子供たちを抱きしめた記憶は、いまでもはっきり覚えている。


今でも時折フラッシュバックする光景だ。








山手線の電車内は、休日であろうと出勤中のサラリーマンの姿が見られた。直和が東京駅で下車し改札を降りると、5色の五輪を模した巨大オブジェが人々を出迎えた。






時は「2020」。現在、4月12日。






東京オリンピックの開催日まであと3か月と少しまで迫っている。




2020年を迎えてからというものの、世間はオリンピックの話題で持ち切りだった。日本人のお祭り好きは本当のようだ。


灯里や光も例外ではないようで、昨年、二人が一番好きな種目「スキルパフォーマンス」のチケットを買おうとしていた。


だが、オリンピックの華とも謳われるこの種目の人気は高く、残念ながら落選してしまったようで、


「阿久津選手の3連覇見たかったのに」


と、本気で悔し泣きをする光をそこで初めて見た。






===






直和と休日出勤のサラリーマンたちは見上げれば眩暈がしそうな丸の内のビル群の間を縫うように進む。


直和はぼんやりと歩きながら、道路を挟んだ反対側の区画を眺めた。




そこは昨日例のヴァイス襲撃火災があった三友銀行の本社跡地であった。


昨日の今日で、警察やらヒーローやらがわらわらと忙しなく動いている。


上空では数台のヘリコプターが爆音を上げて飛んでいるし、目の前の道路は通行止めで規制線が張られていた。


規制線の外側には、暇なやじ馬たちが集まってきていた。




休日なのにほかにすることはないのか?と、直和は若干冷たい視線を送った。








事件現場の2つ隣の道路に、職場がある。丸の内一帯の中でも巨大なビルだ。


敷地の入り口には「株式会社エデン」とでかでかと刻銘されている。株式会社エデンはテレビコマーシャルもよくするし、日本ではそれなりに名の通った金融会社だ。


入り口のIDカードセキュリティに社員証をかざし、サラリーマンたちと同じエレベーターに乗った。




社員がメインフロアである20、21階で降りて、直和以外無人になった後。




直和はエレベーターボタンのしたにある鍵穴に、社員証に付属されている小さなカギを差し込んだ。続いて、階数ボタンを押していく。




2階、14階、7階、5階、19階、11階……




不規則で、他人には意味不明の羅列が並ぶ。


押した回数が15回目の時、低い電子音が鳴った。ここまでわずか10秒。




次の瞬間、エレベーターが急速に降下を始めた。








行先は、「B11」。








地上の社員が存在すらも知らない、隠されたフロアである。




普通の人間には立ち入りすら許されない禁断の場所。






「ヴァイス」だけが入れる場所だ。






エレベーターが到着を知らせる電子音を鳴らした。






扉がゆっくりと開く。


直和は薄暗いフロアを歩き出した。




ロッカールームで、勤務用の作業着に着替えたらいよいよ仕事の始まりだ。黒を基調としたコスチュームとマント。


そして顔全体を覆う黒い仮面。その姿は…。


着替えを済ませ、このフロアのなかで最奥に存在する大きな扉を開けた。




もうすでに同僚たちは集まっているようだ。










「やっと来ましたね。待っていました」




黒スーツの細身の男が、同胞の帰還を穏やかに迎え入れた。




「昨日はお疲れさまでした。ボルケイド」




黒スーツの男は、そういって直和に笑いかけたのだ。



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