第2話『小柳灯里②』
時は現代、西暦2020年。
我々の生活には、『スキル』と呼ばれる特殊能力が欠かせないものとなっている。
有史以前から、人類は過酷な生存競争の中で命を繋いできた。
その過程の中、人類は特殊能力を得た。
それらは個々の遺伝子の違いのごとく、一人一人多種多様である。
人々はスキルの差異を活かして、互いに協力し合った。
そして、大きく文明を繁栄させていく。
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「それで初めの文明が四大文明でしょ!理系だけど流石にわかるよ〜エリナ〜」
「そうね。あんたを見くびってたわ」
クールな雰囲気を持つ、ボブヘアーの少女「西宮エリナ」は淡々と言った。
灯里とエリナは、高校1年生の頃から週に一度は遊びに行くほどの大の仲良しである。
「私、1年生の時世界史得意だったんだよ。初めに重宝されたのは『水の力』で、特にエジプト文明のファラオたちは、そのスキルゆえにー」
「はいはい。灯里が世界史得意なのは分かったから」
「えーんエリナつめたいなぁ。それよか、今日の映画あれでしょ、『スキルが発現しなかった世界』の話だよね。すごいよ、SFでもそんなの思いつかないって」
「あたしこの監督好きなんだよね」
「ねー、エリナ聞いてるー?」
エリナのそっけない態度に、灯里は唇を尖らせた。
エリナはそんな灯里の態度に、ぷっと吹き出した。
「あはは、ったく灯里は。あたし達、今年は受験生だってのに、全然緊張感ないね」
「あったりまえだよ。まだ4月だよ?先のことなんて分かんないって」
灯里は肩をすくめて、ポップコーンをつまんで食べた。
「そんなもんよねえ」
ふう、と息をついてエリナは天井を仰ぐ。
「エリナは?」
「あたしはもう音大一本。せっかくの自分のスキルを活かさなきゃね。担任にも伝えたし」
エリナはにっと微笑んで見せた。
灯里は、目をキラキラと輝かせエリナを見る。
「かっくいい…!」
「そ、そう…?」
エリナは恥ずかしそうに灯里から目線をそらした。
「エリナのスキルって本当に素敵!私もそういうのが良かったなあ」
エリナの持つスキルは、「様々な音が出せる」というものである。文化祭でのラストステージ、エリナのアコースティックギターと、口頭サックスの演奏は凄すぎて惚れ惚れした事を記憶している。
エリナは照れ臭そうに笑った。
「私なんか、『光のスキル』だよ!?なにそれって感じ!」
「そうかな?灯里の能力、あたしは好きだよ」
「私は全然好きくない!!私のスキルの出番は停電した時だけ!光るだけ!」
灯里はぷりぷり文句を垂れた。
「あーあ。なんでお母さんのスキル、まんま遺伝しちゃったのよ。せめてお父さんの『熱のスキル』だったらなぁ…お湯沸かせたのに。」
「弟くん、ハイブリッドなんでしょ?」
「そうなの!『火花のスキル』だよ。いい感じに混ざってさ!羨ましいホント」
『10時20分より2番スクリーンで上映されます、「if〜イフ〜」のご入場を開始します。チケットをお持ちの上…』
灯里の話を遮って、案内のアナウンスが響いた。
「あっ、ねえもう入れるよ」
「ん。行こっか」
2人は立ち上がる。
チケットを持ち、入場しようとしたまさにのその時であった。
ジリリリリリリリ!!!!!!
鼓膜をつんざく非常ベルの音と、聞いたこともない爆発音が耳を貫いた。