prologue
子育ては大変だ。いや、大変だった。雪の降る山の中で出会った赤子。両親はいなく、成り行きで私が育てることになった。私が子供を育てると知った友人たちはまあ、しかめっ面でしたよ。それでも四苦八苦しながら育てたよ。結構私、雑な性格であるんだが、数十年経つとまあ不思議、しっかりとした優秀な青年に育ってくれました。友人たちからは「鳶が鷹を生んだ」とおそらく褒め言葉であろうお言葉を貰ったほどにな。本当に優秀だよ。だってね。現在、上級魔導士でも扱えないとされる『究極魔法』ってやつを1時間前に魔導書読んだけで、敵に放とうとしているんだから。昨日まで一切、魔法なんて使ったことないのにね。
「秋子さん。危ないですから、下がっていて下さい」
「いや、私、八百比丘尼だから、死なないから、大丈夫」
次の瞬間、目の前に500はいたであろう敵の軍勢が塵となって消えた。
私はこの子の育て方を間違えたのだろうか。たまにそう思う。
八百比丘尼になり、数百年は過ぎたであろうか。21世紀に入り、IT社会というものになった。テレビや携帯電話、パソコン等、まあ便利な時代になった。だが、私としてはものすごく住みにくくなった。ちょっと400年前ぐらいなら、山に住もうが、人の集落に住もうが特に問題は無かったが、この時代、山一つでも人が所有権を持っていおり、勝手は出来ないし、人間のルールに従って生きて行くのはまあ、大変である。それでも、人間の友人がいる知人の紹介で都会の一軒家に住めたことは幸運だ。不動産の人曰く、『いわく付き物件』らしいが。まあ私には関係がない。この一軒家、洋室と和室があり、書斎に庭まである。『いわく付き』とついただけで、普通の家賃4分の1しか払わなくてよいとは。本当にいい物件だ。ただ、家賃は払わないといけないし、生活するにあたって、お金が必要となるわけで、始めたのが探偵家業。この家を事務所として経営して、ユキの提案でHPを作り、宣伝もしっかりしている。この物件が都会のわかりやすい場所にあるおかげか、ご依頼人も来てくださり、現在、順風満帆である。ただ、依頼人が人間3割、人外7割ってどうなの?
「人間のうち、2割は魔法使いや陰陽師といった方ですけどね」
「ここ経営して、3年になるが、まともな人間いないのか」
「八百比丘尼が探偵事務所開いていること事態、まともじゃあないですよ」
「いくら、死なないとはいえ、空腹は嫌だもん。ちゃんとしたご飯食べたいもん」
「まあ、確かにそうですけど」
「ドラマみたいに浮気調査とかやってみたい」
「それ、秋子さんだったら、一瞬で終わるじゃないですか」
ピンポーン。と家のインターホンが鳴る。依頼人か郵便屋かなと考えているうちにユキが対応し、私がいる書斎まで連れてくる。この長い黒髪の女性が依頼人か。と考えていると女性は私に向かって、
「婚約者が浮気をしているんです!調べて下さい!」
と叫んだ。
「まあ、落ち着いて下さい。詳しい内容をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい。私の婚約者である彼、アーサーが他の女性と浮気をしていると噂があるんです」
「婚約者ですか」
「ええ、私、グィネヴィアと申します。現在、ブリテン魔導学院に通っているのですが、そこで、アーサーと出会いました。彼の優しい人柄に私は想いを馳せ、告白の後、恋人になったんです。そして、2カ月前に正式に婚約者になったのですが、最近、彼の様子がおかしくて」
「と、いいますと?」
「私が彼に話かけても、よそよそしい感じでして、学院で彼を見かけても、とても暗い表情になっていることが多く、問い詰めても、『何もない』の一点張りで、その上、彼が他の女性と逢引きしていると噂があって・・・」
「成程。彼の様子がおかしく、浮気をお疑いなんですね」
「その通りです!」
グィネヴィアとアーサー・・・
あんまり、良い予感がしないが、
「分かりました。その依頼、受けましょう」
「ありがとうございます」
仕事だ。仕方ない。
秋子さんはグィネヴィアさんの話を淡々と聞いていた。グィネヴィアさんは青いドレスを身に纏ってここに来た。とても綺麗なドレスで細かく花の刺繍がされているのがわかる。内容を聞いていた秋子さんは笑顔で対応しているが、若干、顔が引きつっているようにも見える。依頼人にはわからない感じで。まあ、秋子さんの希望通り、浮気調査が入ったわけだし、この依頼は受けるだろう。このコーヒーを彼女にお出ししたら、洋室から鏡を持って来ないとな。おそらく、そこから出かけることになるだろうから。
「現代社会から異世界に行ったっていいじゃない」と思い、書き始めた小説です。投稿は不定期になってしまうと思いますが、読んでいただけた幸いです。