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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お月見シリーズ

十六夜、クラクション、俺とアイツ。

作者: にゃんた


にゃんたですにゃ。

昨日は十五夜(じゅうごや)のお話でしたが、今日はその続きで十六夜(いざよい)ということです(^^)



2日続けて投稿するのは初めてで、しかも両方即興で書いたので、推敲とか全然できてにゃいです(∩´﹏`∩)

が、昨日のお話の続きなので、是非一緒に読んでみてください<(_ _)>


プァーッ


クラクションの音。

アイツには聴こえているのだろうか?



キキィーッ





アイツが離れていく。



吸い込まれるようにすーっと。

腕を強く引かれたかと思うと、俺の身体はアイツの方に向かって投げ出されて、その反動なのか、アイツのスポーツマンとは思えないような華奢な身体は、交差点に突っ込んでいった。





ズシャッだかグシャッだか分からない、そんな音がした。




俺を守ってくれたんだ、と気付くと同時に、血の気が引いた。


アイツは引き摺られて、数十メートル先で止まっていた。止まった車から降りてくる運転手も額から血を流していた。




喉がひりひりとする。


舌が顎に貼り付いたように動かせない。



一瞬だったのか、数秒だったのか…暫く経ってから俺が絞り出した声は情けなく震えて掠れ、聞くに耐えないものだった。


「…せ、つ。せつにい、雪兄(せつにい)っ!」




サッカーが大好きで。

楽しそうに自在にボールを操るすらりと長い脚は、血に(まみ)れていて。

いつも爽やかに微笑んでいるアイツの顔が、頭の中で血に染まっていった。




アイツの身体は車の下から出ていたので、俺は見てしまったんだ。

普通ならあり得ない方向に曲がっている、アイツの右脚を。






俺が、後ろを向いて歩いていなかったら。


俺が、アイツのプレイを褒めなかったら。


俺が、はしゃいで浮かれていなかったら。


俺が、アイツに庇われることがなかったら。


俺が、アイツの代わりに事故に遭っていたら。




俺が、俺が、俺が。アイツの脚を潰した。



俺が、俺が、俺が。アイツからサッカーを奪った。







俺の名前は、長月(ながつき) (けい)

俺には、幼馴染がいる。

家が隣で、幼馴染(アイツ)は俺より1歳年上で。

兄弟みたいに育った。

小さい頃、俺は体が弱くて、幼馴染(アイツ)はそんな俺を引っ張って、色んなところに連れていってくれた。


かなり可愛がられていた。

たぶん守ってあげなきゃとでも思っていたんだろうけど、女みたいな外見だった小さい俺は随分と幼馴染(アイツ)に助けられていた。


いじめっ子から庇ってもらった。

怖かった犬を追い払ってもらった。

転んだ時に手を差し伸べてもらった。


もちろん俺はそんな 幼馴染(アイツ)に懐き、慕っていた。雪兄、と呼んで、本当の兄のように感じていた。



2年前、交通事故に遭って、思い知った。

俺は結局、可愛がってくれる幼馴染(アイツ)に甘えていただけだったんだって。



それ以来、俺は雪兄を「(せつ)」と呼び捨てにするようになった。

甘ったれていた自分を引き締めるため。

また、俺のせいで俺と同学年になってしまった雪兄に対して声をかける度に思い出せるように。

あの日の、自戒の念を。




アイツは辛いリハビリを乗り越え、ひとつ学年を下げて復学した。

もうサッカーなどの激しい運動は出来ない、と聞いた時の彼の絶望は如何程(いかほど)だったのだろうか。

俺には想像もつかない。

しかし、アイツは乗り越えた。

日常の細々としたサポートは、幼馴染である俺が任された。俺の両親から、そして彼のご両親から。


アイツは、普通に歩けるようになった。

しかし、重い荷物を持っての階段の昇降などは医師からも良くないと言われている。

俺は、俺の身体が空いている限り、ずっと付き添った。

明るい笑顔を浮かべて小さい病弱な俺を引っ張ってくれていた彼は、脚のこともあって随分と大人しく内向的な性格になってしまっていたから。

俺が彼の分まで社交的に振る舞って、アイツを引っ張ってあげたかった。



そして高校1年生も終わりに差し掛かる頃、彼に対する虐めが発覚した。


俺はまたも気付けなかった。

「気にしてないよ」と言ってくれたが、また守られた、そう感じた。

彼を虐めていたのは、俺が友人だと思っていた生徒だったから。


苦しかった。

また俺が彼を苦しめた、と思った。



俺は友人だと思っていた奴らが信じられなくなって、友達と呼べる程信用している相手はどんどん減った。

それでも俺は雪の傍にいた。

あの日の雪が、事故に遭った時の雪兄が、何とも言えず儚くて、何かに惹かれて消えていってしまいそうだったからだ。




陸上部も、頑張っている。

彼はもうフィールドを走れない。

その分まで俺が自分の世界で活躍しようって。


2年生になった今、虐めや口さがない噂は落ち着いている。もう皆、進路を考え始めているからだろう。



俺はまだ何も決めてはいない。

彼に合わせて柔軟に変えられるように。




9月24日、今夜は中秋の名月が見られるそうだ。

彼はサッカー部を辞めたあと、サッカー部のマネージャーにと誘われたのを断って放送部に入った。

彼の、唯一とも言える趣味である天体観測。

天文系の内容の放送を、嬉々として語っている。

今日も、十五夜の由来が云々という放送をしている。

どうせ後で「聴いてた?」と尋ねてくるだろうから、きちんと聴いておこう。




HRが終わったあと、ぼうっとしていた彼に声をかけ肩を揺さぶると漸くこちらに気付いたので、訳を聞く。


さりげなく。

気を遣わせないように。




「おい、大丈夫か?」



そこからは雪が良く分からない雪ワールドを展開して、気付けば俺は、雪と夜の学校に訪れて月を見る約束をしてしまっていた。



一緒に帰り、雪は自分の家に入っていく。

とても楽しみなようで機嫌が良い。

俺も、彼の部屋と30センチほどしか離れていない自分の部屋へと戻った。

彼の望遠鏡を持ち運ぶため大きめのバッグを出しておく。クローゼットの奥の方に入れてしまっていたので、出すのに時間がかかった。


バッグを出すために掘り返したクローゼットに物を収め直そうとすると、窓の向こうから声が聴こえた。

何を言っていたのかは定かではないが、声を掛けられたので、用があるのだろう。窓から顔を出そうと方向転換しようとして、クローゼットの物に引っ掛かって崩してしまった。

がたがたっと音がする。ローテーブルに足をぶつけ、若干ふらふらとしながらも窓から顔を出した。


すると、準備が出来たとのことだったので、窓を伝ってこちらの部屋に来るよう言った。

望遠鏡も渡され、用意したバッグに詰める。

重い荷物は俺が持ち、雪と共に学校に向かった。


学校の裏手には丘があり、そこにレジャーシートを敷いて、2人で寝転がって月を見上げた。




「綺麗…圭ちゃん、お月様、綺麗だねぇ…」


「…月が綺麗ですね、か。……どんな思いで愛を語ったんだろうな。」




本当に、どんな気持ちで「月が綺麗ですね」を「アイ・ラブ・ユー」の意味で使ったのか。

俺なら、『愛してる』じゃなくて『そばにいて』って意味だと思う。

こうして2人並んで空を見上げていると特にそうだ。

「綺麗だね、だからまた一緒に見ようね」そんな意味が込められているような、そんな気がするんだ。



雪が用意していた団子は2人で食べ切った。

みたらし、あんこ、黒蜜きな粉なんかもあった。

望遠鏡は持ってきたけれど大して使わなかった。

肉眼でも月は綺麗に見えたから。

雪が月から目を離さないので、俺が片付ける。


それでも雪は月を見詰め続ける。



月を。

銀色に輝く真円に近いあの月を。


事故の日には俺を呆れた目で見下ろすかのように、白く(こご)っていたのに。

今日の月は、雪を吸い寄せる。

依然として月を見続ける雪の目から、一粒の涙が零れ落ちた。


何を思っているのか、俺には分からない。

雪には辛いことが多過ぎたから。

軽々しくその涙の意味を問うことは(はばか)られた。



願わくは。

月よ。雪を連れていかないでください。

俺たちと共に生きる人だから。

俺が生きていられる理由だから。



今まで沢山守られた分、精一杯彼を守ると誓う。

だからどうか、十六夜(いざよい)の満月にも伝えてください。


いざよう(ためらう)ようにひっそり現れる明日の満月よ、今夜の名月のように彼を俺から取らないで。』



彼を連れていくことがないように。


彼を惑わせることがないように。




今夜の月は綺麗すぎる。



だから俺は存在を主張するように声をあげる。



月が綺麗だな(俺がお前の傍にいる)。」と。



遠くあの日のクラクションが聴こえたような気がした。



読んで頂き、ありがとうございますにゃฅ^•ω•^ฅ


コレでこの話はおしまいですが、彼の罪悪感や不安絶望、そんな物を感じて頂けたら嬉しいです(><)


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