アニミズム
小さな待合室の片隅で、3歳くらいの女の子が、クマのぬいぐるみで、遊んでいる。
クマは、女の子の手の中で、言葉を発している。
「食べたいものある?」の女の子の問いかけに、クマは、
「うん、プリン」
女の子の意識の中では、クマは、生命をもつ。児童心理学の分野では、有名な、この
『アニミズム』。実は、大人の私も、時々、無生物に向かって話しかけている。私が、毎日の生活の中で、病気にかかったり、死んで欲しくないと、切に願っている無生物がいる。『洗濯機』だ。汗臭い衣類を、1日でも放置するのが嫌な性格で、洗濯機を回すたび、思うのだ。絶対に、壊れないでよね、と。壊れたら、買い替えたら、いいじゃないかと、思う人もたくさんいるだろう。だけど、私は、そうじゃない。電気屋に行ってどれにしようかと迷い、決まったら、決まったで、いつ配達してもらえるか、そうすぐに、運んでは、くれない。その間の、汗臭い衣類は、私のイライラを増長させるかのように、雑菌力を増し、お気に入りの衣類にしみや、カビを作りだす。おぉ、考えただけでも、顔にシワができる様だ。だから私は、洗濯を終えた時に、洗濯機さんにこう言うのだ。「洗濯機さん、ご苦労様、明日もよろしくね。」
そして、操作ボタンの横にそっと手のひらを当てる。ばかばかしい行為だろう。たいがいの大人は、そんな事で、洗濯機がいい気持ちになって、壊れにくくなるなんて思うはずない。だが、これは、長持ちの秘訣なのだ。私が言いたいのは、大事にしようとする言葉は、気持ちになって表れ、行動に移されるということだ。知らず知らずのうちに、洗濯機に優しくする。例えば、衣類をどっさり入れないで、二回に分けて洗った方が、洗濯機に負担がかからないだろうなとか、1ヶ月に1回は、洗濯槽の垢取りをしようとか、乱暴にボタンを押すのは、やめようとか。
実際、すぐにエラー表示が出た洗濯機が、いつのまにやら、なおっていたことがあるしね。
ある少年が、サッカーのチームに所属していて、絶対、来年は、レギュラーを取りたい、
そう願った。少年は、1年後のレギュラー発表まで、毎夜欠かさず、どこかの国のお土産にもらった木彫りの置物に願いを込めて
「来年は、レギュラーになれますように」
と口に出して、目をつぶる。毎夜、必ず、どんなにお腹が痛い時も、吸い込まれそうな睡魔に潰されそうになる時も、友達とけんかしてムカついている時も、必ずだ。
この少年は、来年は、堂々とレギュラーを勝ち取り、グラウンドを駆け回るはずだ。
木彫りの置物が、魂をもって、願いを叶えてくれたのではない。毎日継続して、やりとげる、その力は、サッカーの練習に反映されるということなのだ。彼の、コツコツ精神、決めた事を必ずやり通す力は、無生物に命を吹き込めるほどのエネルギーになるだろう。
さあ、あなたも何かを願っているなら、思いは、力になる。きっと。