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40)小鬼のとなりに行きたくて



気がつけば

叶う前に壊れた透きとおった指先だった


誰を指さすこともせず

自分の爪を避けるように見ている

たったひとつの夢だけ追い求め続けた

恥ずかしがり屋のヤツだった


《あたし》

おんなはアイキョーって

いつの歴史の話だよ

カビ生えてコケむして

人ならミイラになってるさ

ミイラになったら生き返れないとか

不可能事のはなしのひとつさ

もういい加減わかれよな

かっこ怒りかっことじ、

みたいな


《あっち側の神様》

そんなこと

おっしゃられてもこまります

やはり女性は可愛く愛敬もあったほうが

なにかとお得ではありますでしょう?



あたしの恋する彼女の

たったひとつの夢に対する拒絶

に対するあたしのそれでも精一杯

気をつかったと思う抗議

に対するあっち側の神様の憫笑


怒りを

音を立てて飲み込み 帰ってきた


やはりそれでも

声もなく

落ち込んだ

彼女のことが

こころまで穢れてしまって

自分で自分を嫌う

卑怯ものの自分よりも

圧倒的に愛おしかったので

もう 彼女のためになんでもしたい

と 思ってしまったんだ


好きになってしまったのが、悪かったのか?




『それからが、憐れをもよおす、ものがたり』




なにも黙ってこらえている時間が

成功を約束してくれるわけじゃないんだけどさ

「正しい、光かがやく未来」だけ

いちずに思い続ける彼女の突然の死は

やっぱりあまりにあっけなくって

あまりに理不尽で 本当の意味での絶望が

あたしの首を絞めつける


あたしは 今更でも 神様におもねっても

ひれ伏しても なにをされても

にこにこ にこにこ 愛敬ふりまいて

どんなに自分をおとしめる方法つかっても

このお願いだけ聞いてもらおうと思ったの

ききとどけてもらうわなにを支払ってもって


「彼女を生き返らせてください 」

「お願いします」


天にツバするものは

吐いたツバを飲み込むのたとえとおりさ

「ミイラになったら生き返れない」

とは、すぐるあの日のあたしの啖呵





気がつけば

叶う前に壊れた透きとおった指先だった





誰もその指にさされたものはなく

その桜の花びらのような爪だけが浮かび上がるので

誰かはずいぶんと長い間食事をするのも忘れて

小雨の溜まった狂いかけの恋の眼つきで

叶ってほしい夢と小さな爪だけ見つめ続けていた

「惚れたら負けね」の目つきでさ


もう

終わりにはする

神様をこれ以上増長させることはしない

あたしも不幸の尾を踏む覚悟はできた

なにがかえってきても よしとする 永遠の

あこがれとあわれみとしどけない微笑みを

胸の裡にしばりあげるように持ち続ける

誰にもなにも言わせない


ただ

いまは、おそらくはあの世で一番かわいい鬼

となった貴女が それをどう思うかだけが

あたしの唯一の心配だ───


貴女の、となりに、行って、良い?








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