やさしい手
男の子と女の子はまいにち、まいにち愛情をこめて卵をそだてていきました。
ふたりはかわるがわる卵の番をしました。
ちょうどいい温度になるようひっくりかえし、ときどき卵をライトでてらして中のようすをみました。
中のようすがへんかしていくのをみるたびに、二人ははきちんとそだっていることにかんどうしました。
こんなにも小さな卵に、男の子と女の子とおなじ命がつまっているのです。
卵をおむかえして20日がたったでしょうか。
さいしょに卵のへんかに気がついたのは男の子でした。
こつこつ、こつこつ。
そっと耳をすますと、小さなノックの音がなかからきこえます。
男の子はあわてて女の子をお庭からよんできました。
「ほら、耳をすませてよーくきいてごらん」
二人の声はしぜんとちいさくなります。
男の子はやさしく女の子を卵のほうへひきよせました。
女の子は頭をかたむけてじっと耳をたてます。
「あ、生まれるね」
瞳をたいようのようにきらきらとかがやかせて、女の子は男の子の手をぎゅっとにぎりました。
それから二人はしずかに卵をみまもりました。
やがて、女の子の頭の花冠を男の子がそっとととのえてあげたころ。
小さな命は、このせかいに生まれたのです。
なまえはもちろん、かんたです。
かんたはすくすくと育っていきました。
きれいな太陽色の羽毛がはえそろうころには、元気よく鳴き、元気よくあそぶようになりました。
「こらかんたー」
女の子の肩にのって、かんたはいたずらをします。
くいくいと、髪の毛をひっぱるかんたを男の子がそっとなでてやると、あまえごえをあげていたずらをやめます。
しかし、男の子がなでるのをやめると、かんたはふたたび髪の毛であそびだすのです。
ぷくっとほっぺをふくらませて怒る女の子。そして楽しそうにあそぶかんた。
男の子はそれを見て、やさしくほほえむのでした。
お部屋のじゅうたんに座る女の子と男の子。そして一匹のオカメインコの頭の上を、金魚たちがふわふわと泳ぎます。
それを見て、男の子は用事を思いだしました。
女の子とかんたを愛おしくなでて、男の子はたちあがります。
「どこにいくの?」
「うん、ちょっとお庭にいってくるよ」
男の子は部屋のドアをあけて、しずかに歩きだします。
少しだけさびしそうに、女の子は男の子をみおくりました。
男の子は、金魚たちとともにお庭にでました。
おそとは今日もやわらかな光と、やさしい風がふいています。
男の子がまぶしそうに空をみあげたその時。
金魚たちが何かからにげるように、さっとちりぢりになりました。