白く閉じる
いつの間にか寝ていたのだろうか。
外傷と闘った身体はだいぶ疲れやすくなっているようで、時々急に眠気が来ることがある。
子守唄を歌いながら眠っていたのだろう。
目の前でチカが穏やかに笑っていた。
「久しぶり」
その声をよく聞くために。
そして、その顔をよく見るために急いで身体を起こした。
そこは夢の中で過ごした家の庭だった。
小さな花たちが咲き、そして魚たちが泳ぎ。
相変わらず元気な鳥たちは、僕を見て久しぶりと言うかのようにさえずる。
何もかもが懐かしく、そして遠く。
しかし。
終わりはすぐそばまで、輪郭がはっきりと見えるまでに近づいてきていた。
命の可能性を殺し、滅ぼし、絶やしていく全ての終わり。
命の敵に、いったい誰があらがうことができようか。
でも、僕はその敵に向かって、声限りに叫びたかった。
奪われてなるものかと、僕はチカを抱きしめる。
「ごめんね、頑張ったんだけど。わたしはもう無理みたい」
別れを否定しなければならないと、僕は唇を動かしたのだろうか。
口から漏れる音は、浅い呼吸音にしかならない。
「頑張ったんだよ……だけど、わたしは海に辿りつけないの」
どこまでも優しく。
優しく泣いて、そして優しく微笑んで。
それは、一人で生きていかなければならない僕を勇気付けようと。
この優しいまどろみを手離して、僕はどうやって歩いていけばいいのだろうか。
「ありがとう」
離れたくないという言葉を喉にとどめて、僕に感謝を捧げるその声が。
僕の心臓と、それよりもさらに深くを刺していく。
全てが明るく。
世界が白く閉じていく。
ここでしっかり抱きしめていたとしても、それは足掻きにもならないことを分かっていた。
分かっていたとしても、夢が滅ぶ最後の瞬間までチカを抱きしめる。
僕は感謝さえ言えず。
無力なこの手は……
あと1話。




