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ささやくように
その日、一人の少年はある病院で目をさました。
少年は、眠りの中で見た夢がどのようなものであるかを思い出せなかった。
ただ、夢の中で自分がとても幸せだったこと。
愛しい、大切な誰かが傍にいてくれたこと。
それだけが心に残って、静かに胸が痛んだ。
同じ日に、一人の少女は、とある病院で目をさまさなかった。
少女は、自分の見る夢から愛しい人が去っていったことに涙した。
しかし同時に、愛しい人が夢から覚めてよかったとも思えたのだった。
同じ日に、一匹のオカメインコが卵から産まれた。
生まれてすぐのオカメインコは、まだ目が見えない。
だけど、目が見えるようになったそのときに。
どんな世界に出会えるのだろうかと、そのオカメインコは考えながら微睡んだ。
目覚めた少年は、小さく疼く胸を抑え、愛しい誰かを見つけなければとベッドから起き上がる。
眠りつづける少女は、涙を流しながらも微笑んで、夢の中で大空を見あげた。
小さなオカメインコは、幸せな世界を夢見みてささやくようにひと鳴きした。




