幸せの夢うつし
「ほら、みて。生まれるよ」
一人の女の子がそっと両手で包んでいたものは、小さな、小さな卵。
その愛しい宝石に、ひとすじのひびがはいっていました。
卵を見守るのは女の子だけではありません。
少し気弱そうに見える男の子がそばにいます。
「大丈夫かなあ、ちゃんとカラをやぶれるかなあ」
自分よりもはるかに小さな命が、この世界に生みおとされるのを心配そうな顔でみていました。
ふたりは息をひそめて、新しい命にしずかにかわいいおうえんを送ります。
「がんばれえ、あとすこし」
「でておいで。たいじょうぶだよ、あたしたちがそばにいるよ」
ふたりとその卵は、へやのまどから入り込むあたたかでいごこちのいい日差しをあびていました。
さわり心地のいい木でできた、小さなイスに座りながら。
男の子はふと、女の子をみます。
その短く切りそろえられた髪は、日のひかりでかがやいていました。
それは、きれいな黄金にも、ゆうがな茶色にも見えました。
すると男の子は、不安げな顔からやさしいえがおに変わりました。
「そうだね、きっとだいじょうぶ。ぼくたちがいるからね」
たのもしい男の子の声に答えるように、ぴっ、とひびが広がりました。
「わあ」
「あと少しだよ」
がんばれ、がんばれとささやく声に答えるかのようにひびは卵をいっしゅうします。
ぱかりと卵がひらくと、ふたりは小さな声をあげました。
「やったね。がんばったね」
「よかった。ほんとによかった」
女の子は男の子をみます。
なさけないことに両目はうるうるとなみだをためて、今にも泣きだしそうです。
それでも女の子は、ぎゅっとおでこを男の子のおでこにおしあてて、いとおしげにほほえみました。
「ねえ、なまえはなんにしようか」
男の子はなみだをちいさな手でぬぐって女の子にたずねます。
「なまえは決めてるよ」
女の子は、男の子の耳元でそうささやいて、あたたかな布の巣にあたらしい命をそっとおろしました。
「名前はね、かんた」
男の子はおどろきました。
「かんた? もしかしたら女の子かもしれないよ」
しかし、女の子は自信たっぷりにいいます。
「だって分かるもん。この子は男の子よ」
つよきな女の子に、男の子は少しかんがえ、そしてにっこり笑いました。
「チカがいうならきっとそうだね。うん、いいなまえだ」
かんたー、かんたーとなまえを呼ばれたあたらしい命は、ふりふりと頭をうごかしてしずかに息をしています。
生きています。
しんぞうが忙しくはたらいています。
うごいています。
「かんたのパパとママになるんだよ。しっかりしないとね」
「そうだね。ナルはやさしいからいいパパになれるよ」
女の子にほめられた男の子は、少してれながらもトンと自分のこぶしでたたきました。
「うん。がんばるよ」
しあわせな夢のなかで、ふたりといっぴきは大切なかぞくになりました。
ふたりに育てられて、かんたはりっぱなオカメインコになることでしょう。
新作です。
ぼちぼち書いていきますよー。
他にもいろいろ書いています。作者ページに遊びに来てね。