会合
雪の妖精……この村に伝わる伝承の一つだ。
この雪で閉ざされた村に住んでいる妖精。この世界の神様である、”雪神様”の使徒で、いつも村の様子を遠くから観察しており、住民たちを見守っているという。この村に住んでいるものなら、誰だって知っている伝承だ。
この伝承は村に根強く結びついている。この村の中にも雪神様の存在を信じている人が何人かいるのだ。村人の中には毎朝雪神様や雪の妖精へのお祈りを日課にしているものもいるほどだ。
確かに、雪の妖精の外見は、幼い少女のようであると語られている。コードがこの伝承を思い出してしまうのも仕方がないことなのかもしれない。
「そんなこと……」
さくり、と新雪を踏む、小気味よい音が聞こえる。
耳に残る不快な音。
もちろん、この場には新雪など存在しない。
ただの幻聴だ。
しかし、その音がどうしても頭から離れない。
リオンは否定の言葉を返そうとしたが、その言葉の続きを言い切ることができなかった。
「あるんだよ。おとぎ話なんて皆は馬鹿にするかもしれないけどさ、本当にいるんだよ。雪神様も、雪の妖精も、さ」
コードは昔からそうだった。この伝承を人一倍信じていた。
毎朝、お祈りは欠かさず行うことは当然として、人に会えば、さながら宗教の勧誘活動のように雪神様の素晴らしさを語ったり、チラシのようなものを作って配ったりしているのだ。
要するに、コードは雪神様の熱狂的な信者なのだ。仕事がきつい村長の小間使いでいるのも、そのおとぎ話が真実である証拠を少しでも集めたいからなのかもしれない。
「おっと、そろそろ時間だ。リオン、また後でな」
そう言うと、コードは部屋の奥の方へ向かっていった。どうやら村長を呼びに行ったらしい。気がつくと、出席者全員がもう出揃っていた。
数分もしない内にコードに連れられて、村長がやってきた。
「皆、揃っているようだな」
村長は顎髭を弄りながら、村人達に語りかけた。村人達も村長の存在に気付いたのか、目線が一挙に村長の方角へ向けられた。部屋の中を満たしていた話し声もいつの間にか止んでいた。始めから会話など存在していなかったように、ただただ静寂だけが、この場を満たしていた。
村長は周りが静かになったことを確認すると、その場に座り、改めて周りを見渡した。村人は皆、村長を見つめ、その様子を伺っていた。まるで、村長の一挙一動が、自分達の今後を左右するかのような、真剣な表情であった。
「もう、話は聞いているとは思うが、今日、皆を集めたのは他でもない、村の配給の件だ」
配給はこの村の生命線であった。一年中雪が降り積もるこの村では、米や麦、芋といった主食を栽培することができない。さらに、野生の動物や植物も全くいないため、村の中では一切食料を生産することができない。当然、燃料や衣服などといった生活必需品も手に入らない。自給自足の生活が送れないのだ。
そうなると、物資は自分の村以外から手に入れる必要がある。生活するのに必要な物資を手に入れる唯一の手段。これが配給だ。
配給は月に一回のペースで行われる。配給された物資は村長の家に届けられるため、月に一度の村の会合の後に、住民には、それぞれ均等に配分された物資が分け与えられる。配給では、食料や生活必需品は当然のことながら、楽器や絵の具、玩具などといった娯楽の道具も用意されていることもある。
いつ、この村が配給に頼るようになったのかは、村の住民の誰も知らない。この村の住民は、分け与えられる物資を当たり前のように受け取り、ただただ貪るに過ぎなかった。
しかし、ここ最近になって配給の様子が変わってきた。配給される物資の量が格段に少なくなってきているのだ。
これは村にとって一大事であった。生活のほとんどを配給で賄っている住民にとって、配給の減少は、生活水準の低下を意味していた。幸いにも、現在はまだ、生活できるレベルの配給量ではある。しかし、このまま、配給の量が減っていくことになれば、生活そのものが成り立たなくなってしまう。この緊急事態に、村長はいよいよ、住民を集めたというわけである。
「知っての通り、この村への配給は日に日に減少傾向にある。我々はこの事態を打破しなければならない」
村人達は大いに頷く。配給が滞ることは、自分達の生活に響く。関心があって当然なのだ。
「皆は、配給がどこから来ているか知っているか」
村長が村人達に呼びかける。その呼びかけに村人はざわざわと音を立てる。思わず隣人を見るもの。まじまじと村長を見るもの。キョロキョロと辺りの様子を伺うもの。村人達の反応は様々だ。しかし、誰も答えようとはしない。配給がどこから来ているのか、誰も答えを知らないのだ。
「……外だ」




