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そして、春が来た  作者: 加護景
ハル
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外出


 外は白一色だった。リオンの村と同じように、周りに見えるのは雪ばかりで、他には何もない。春に咲く花も、土の香りも、爽やかな風も、一欠片も存在しなかった。


「ねえ」


 リオンが心配そうに尋ねる。


「やっぱり寒くないのかな」


 この雪の中でも、薄手のワンピースを着ているのだ。やはり奇妙に映るだろう。


「大丈夫です。体は丈夫な方ですから」

「いや、それにしても……」

「普段からこの格好ですから」

「いや、でも……」

「病気にも罹ったことありませんから!」

「……」


 酷いゴリ押しだった。


「まあ、外の世界には、いろんな文化があるもんさ。俺達には到底理解できないとしてもな」

 コードは軽口を叩く。さすがに環境の順応が早い。これなら、どこに行っても生きてけそうだ。

「そういえばさ」


 コードが話しかける。


「ハルさんは何で外に出ていたの? 普通、村の外でやる仕事なんてないと思うんだけど……いや、ハルさんの村では村の外に出ることは当たり前のように行われることなのか」

「それはですね……」


 勿体付けるようにタメをつくる。


「花を、探していたんです」

「花?」


 リオンが反応する。リオンにとって、花はこの旅の目的そのものである。気になるのは当然だ。


「そう、花です。私は自然に咲いている花をひと目見たくて、村の外まで出ていたんです。あっ、でも、村の人には話さないで貰えると助かります。怒られてしまいますから」


 口元に人差し指を立て、内緒だよ、というジェスチャーを取る。


「この地域に花なんて咲くのか」


 コードが質問する。その言葉に、ふるふると首を振る。


「いえ、咲かないと思います。見たとおりこの辺り一帯は雪ばかりですから……でも……でも! もしかしたら、咲いてるかもしれません。村の人が知らない場所で、私が知らない場所で、花が咲き誇っているかもしれません。その可能性が一番高いのは、やっぱり村の外だと思うんです。だから、私は村の外で花を探しているんです」


 一通り喋り終わると、ふっ、と我に返り、そのまましょんぼりと顔を伏せた。


「すみません。一人で喋りすぎました……」

「いや、全然気にしてないぜ。ハルさんが村の外まで花を探しに行っていたおかげで、俺達は助かったわけだしさ」


 コードのフォローが入る。確かに、村の外まで来ていなければ、今頃、二人の命はなかっただろう。


「花を……探していたのか……」


 リオンが呟く。その様子はさながら独り言のようだ。


「やっぱり……変ですか?」

「いや、そんなことはないんだけど……」


 降り積もる雪の中、花を探す少女。色のない、モノクロの世界で、健気に、色を見つけようとする。無意識の内に、春を、求め続ける。その姿には覚えがあった。


「リオンはな、花を探すために、村の外にやってきたんだ」


 コードが説明をする。そう、すべては、花を咲かせるためなのだ。


「そうだったんですか! リオンさんは、花が好きなんですか?」

「……」

「……嫌いなんですか?」

「……」


 リオンは答えない。好きか嫌いか、極めて単純な質問だ。それでもリオンは沈黙を貫く。いや、沈黙せざるをえないのだ。リオンにとって、花を見つけることはリオンが生きる意味そのものである。妹のためにも、必ず成し遂げなければならない。そう誓ったのだ。そこに個人の感想や好みが介在する余地など一切ない。だから、答えられないのだ。


「……好き嫌いじゃないんだ」

「どういうことなんでしょう?」

「ああ、それはな……リオンは自分の妹のために、花を探しているんだ」

「妹のため……」


 妹のための旅。妹に許しを請うための旅。花を求めて、そして贖罪を求めて、リオンは村の外にやってきた。


「妹さんの名前は、何ていうんですか」

「……クーリだ」


 リオンはぼそりと呟いた。クーリ……花を何より愛していた少女の笑顔はもう、戻ってこない。


「そうですか……亡くなったクーリさんのためにも、花を見つけなければいけませんね」


 リオンは目を伏せ、俯く。影が差したように、次第に表情も暗くなっていた。


「大丈夫です。リオンさんならきっと花を咲かせることができますよ。だから、あんまり落ち込まないでください」


 そんな必死のフォローも虚しく、三人の間には重い雰囲気が立ち込める。そんな空気を見かねたのか、コードが苦笑しながらも、話題を切り出した。


「ところで、村長の家までは後どのぐらい時間がかかりそうなんだ」

「そうですね。もうじき、着くと思います。……ほら、あそこに見えるのが村長の家です」

「……村長はどんな人なのかな」


 コードが恐る恐る尋ねる。よっぽど、自分の村の村長に恐れを成していたのだろう。少し声が震えていた。


「あまり喋らない、寡黙な人ですよ。でも、とても親切で、優しいんです。この前なんか、私に造花をくれたんです。後でお二人にもお見せしますね」


 その言葉に、コードはあからさまに、ホッとしているようだった。村長が一種のトラウマになっているのかもしれない。


「村長の家まで、あともう少しです。病み上がりできついかもしれませんが、頑張りましょう」



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