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(……また、会えたらいいんだけど)
そう、思ってしまうのは図々しいだろうか。
ミツキは歩いていた足を止め、鍵をそっと握りしめる。
思えばこんな風に、朝から晩まで誰かとずっと一緒にいた経験などミツキにはなかった。
家族とも、友人とも、共に過ごす時間は少なかった。限られた時間の中で精一杯好意を示しても、彼らには彼らの別の世界がある。そこにミツキは存在しないし、入れてもらえることもない。
ダリヤともロルフともそれなりに親しくはなったけれど、それは彼らの生活の中のほんの一部にお邪魔しているような感覚で、時間を共有しているという意識は薄かった。
けれど、ユーリと過ごす時間は違ったのだ。
(楽しかったんだよね)
そう、楽しかったのだ。単純に。
大変だったけれど、楽しかった。一緒に何かをやる、協力する、手伝ったり助けたられたり、そういったやり取り全てが新鮮で眩しくて、かけがえのないもののようにミツキには思えたのだ。
勿論体は慣れない作業で悲鳴をあげていたし、やらなければならないことを棚上げしている罪悪感もあった。それでもなお彼のもとに足を運んだのは、命の恩人だからという理由だけではきっとなかった。
(この鍵を持っていれば、また、きっといつか、)
少し、邪な気持ちでミツキは掌の中の鍵を握りしめる。
そっと閉じた瞼の裏側では、先ほど別れたばかりのユーリが溌溂と笑っていた。
「さて、それじゃぁ本格的にスキル上げと行こうかな」
かなり久しぶりにヴェルナーと共に街道に降り立ったミツキは、宣言通りにそこから延々と銃攻撃でのモンスター狩りを開始した。
半日怪鳥を狩り続けてわかったことはふたつ。ひとつめは聖属性を付与した銃での攻撃は、通常の攻撃で出せる威力とそう大差ないということ。
(というか、あれだ。そもそもの攻撃力が高すぎて、差異に気づけないレベル…)
とはいえ、それはモンスターの属性にも大きく左右されるだろうことは理解できた。そもそも今までミツキにはモンスターの属性が見えていなかった。というか見る必要もなかったのだ。
(だって、ほぼワンパンだったし)
その為特別意識したことも正直なかった。けれど死神の出現により、ミツキはモンスターにはそれぞれ属性があるということを理解したのである。
そして理解したのとほぼ同時期に、鑑定のスキルレベルがあがった。これにより、ミツキはより詳しい情報を対象物から得られるようになったのである。
(そしたらちゃんとあるんだよなー、属性の欄が)
ちなみに人間は全員無属性である。属性は種族によってほぼ固定されているらしい。アンデット系はもれなく聖属性に弱いし、湖周辺にたむろしていた奴らはおそらく水属性で火に弱いことが推察される(もう確認しにいくのも嫌だけど)(いや、行くけどさ)
ちなみにヴェルナーは火属性で、街道を飛び回る怪鳥は土属性だった。
(弱点をつかなければ、属性攻撃というのはほぼ無意味らしいということがわかったよ…)
なんという徒労感、と言いたいところだがここで朗報である。闇雲に銃を乱射したおかげでスキルレベルが上昇したのだ。まぁそれを見越してのことではあったのだが、あまりの銃乱射事件ぶりにヴェルナーが隣でちょっと引いた顔をしていたのも事実である。




