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ミツキの様子に、ユーリは思うところがあったのだろう。「もしかして、奴隷を買うつもりなのか」と聞いてきた。
「えっ、……えっと、」
少し躊躇ったが、嘘を吐いても仕方がない。正直に頷くと、ユーリは「それなら尚更家はあった方がいいだろ」とこともなげに言った。
(一瞬、責められるかと思った)
そう思ったのは、ただの直感だったのだけれど。そんなことはなく、ユーリの態度は淡々としたものだった。やはりこの世界では奴隷の売買は一般的なのだろう。
「初心者とパーティーを組んでくれる物好きなんてそういないからな。金があるなら奴隷と組むのがいちばん手っ取り早い」
あぁ、だからか、とユーリは何かを察したように手を打つ。
「初心者のくせにあんな場所にいたのは。確かにサラヘナ湖は希少な薬草の群生地だからな」
軍資金集めだったわけか、とユーリは勝手に結論付けたようだった。まぁ、あながち間違いでもないのでミツキも否定はしない。
「でもだからって死神の相手はさすがに無理だろ。命がいくつあっても足りないぜ」
「でも、鈍足なんですよね?属性攻撃さえ通れば、倒せない相手じゃないって…」
そう続けると、ユーリは一瞬呆けたように目を丸くした。次いで、声を上げて笑い出す。
「なっ、」
「おっ、まえ!あんなに情けない顔で泣きべそかいてたくせに!まさか倒すつもりでいるのか?あのDEATHを!」
「だ、だって…!」
あまりに荒唐無稽だ、と言わんばかりのユーリの態度に、ミツキは思わず反射的に言い返していた。
「倒したら百万コインなんでしょう!?競売までそんなに時間もないし、薬草やアイテムを売却してるだけじゃ目標コインに届かないかもしれないし!!」
思わず敬語がぶっ飛んでいた。勢いでそうまくし立てたミツキは、けれどふと目の前のユーリが無言でいることに気づく。
(あ、)
そこでようやく、ミツキはユーリの顔から笑みが引いているのを見た。
「へえ、それは自分の命よりも大切なことか?」
冷たい声音。ミツキはその突き放すようなユーリの台詞に、己の発言の愚かさを知る。そうだ、自分はこの人に命を助けてもらったばかりなのに。
(なのに、また同じ危険に飛び込もうとしている。────お金の為に)
ユーリからすれば愚の骨頂だろう。能力も度胸も足りていない癖に目先のコインに目が眩んでいる────そう思われても仕方がない。
(仕方ないっていうか、事実その通りだし…)
急に自分が恥ずかしくなって、ミツキはぐっと下唇を噛む。
ユーリの視線から逃げ出したくて、たまらなかった。




