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「うへぇ…」
読めば読むほど、ゲームみたいである。
ミツキはまたしても妙な声をあげた。
比べるものがないので、このステータスが良いのか悪いのかもよくわからない。
しかしひとつだけわかったのは、名前が空欄になっている、ということである。要は名前がないということだ。
「名前…どうしよ」
勝手につけてしまっていいのだろか。
「でもないと困るよね…主に私が」
ミツキはうーんと唸りながら名前の候補を考え始める。
(見るからに西洋風な見た目なのに、日本名をつけるのもどうかなぁ)
こういう時はカタカナが良いだろう。どうせ自分しか呼ばない名前なんだし、好きにつけてしまって構わないだろうか。
「うーん、あっ、そうだ」
先ほど花冠に使った白い花、日本でいうところの野ばらによく似ていた。
「ヴェル、…ヴェルナーって呼んでもいいかな」
野ばらから連想した好きな作曲家の名前を口にする。すると、目の前のウインドウの名前の欄に、スッと文字が浮かんできた。
名前 ヴェルナー
「おおーっ」
何故だかちょっと、感動してしまった。
すると、わふっと、まるで返事をしたかのようにひと吠えされる。名前を気に入ってもらえたような気がして、ミツキはつい嬉しくなってヴェルナーの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
するとヴェルナーは目を細め、尻尾をパタパタと先ほどよりも激しく揺らしはじめた。うう、なんだこれ、可愛すぎるじゃないか…!
最初はあんなに怖かったのに、今となってはとてつもなく可愛くいとおしく思えてくるから不思議である。我ながら現金だなぁと感じつつ、さてこれから先どうしようかという問題に再びミツキは直面する。
ヴェルナーの毛並みを楽しみながら、ミツキはウインドウの文字を目で追う。攻撃力とか防御力はそのままの意味だとして、HPは体力、MPがあるってことはやはり魔法が使える前提の世界ということになるのだろうか。
(スキルのとこに、火炎魔法ってあるしなぁ…)
後で使って見せてもらおう、とミツキは思う。なんとなくだが、言葉は話せなくともヴェルナーとは意思の疎通が可能なような気がしていた。
それが所謂“従属”のせいなのかどうかは、今のところまだよくわからないのだけれど。
(あ、でも待てよ)
火炎魔法の下にあるスキルに、ミツキは釘付けとなる。
「食料調達…!」
なんて素晴らしい響きだろう!とミツキは目を輝かせる。これこそミツキが今最も必要としているものなのではないだろうか。
「あっ、あのねヴェルナー!ごはん…何か私でも食べられそうな食料、探してきてもらうことって出来るかな…!?」
恐る恐るそう問いかけると、ヴェルナーはわふっ、とひと吠えした後尻尾を振りまわしながら森の方角へと駆け出して行った。
早い…!さすが魔獣!!と、よくわからない感心の仕方をしたところで、ミツキはふと我に返る。
(えっと…、私はどうしようかな)
ヴェルナーがいなくなると、途端に心細さを感じてしまう。今からこんな調子では先が思いやられるというものだ。
この世界では誰にも頼ることが出来ない。ミツキが生前縁を結んだ家族や親しい人たちとは、この世界で出会えることは決してないのだから。




