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結局雑草駆除には十日を要した。その間、見事にそれ以外のことは何も出来なかった。
(こんな…はずでは…)
真っ黒になった軍手を握りしめながら、ミツキはくっ、と己の不甲斐なさを噛みしめる。ノーと言えない日本人を地でやってしまった気分だ。
「いや、ご苦労さん」
そんなミツキの様子を知ってか知らずか、ユーリは晴れやかな顔で────なんだか無性に憎らしく見えるのは気のせいだろうか────冷たい飲み物を差し入れてくれる。
「…どうも」
受けとって一応お礼を口にすると、ユーリは自らもそれを一気に飲み干した。
「労働の後はこれに限るぜ」とまるで就業後のサラリーマンのようなことを口にしたユーリは、黒のノースリーブに動きやすそうなパンツ姿で、まるで肉体労働系の兄ちゃんのように見える。
(……元の世界では、絶対に縁のなかったタイプの人だなぁ)
まぁそれを言うならシグリットも然りなのだが、シグリットに関してはもろ異世界の人、っぽい容姿なのでカウントしない。
対してユーリはと言えば、確かに容姿は優れているが、シグリットほど浮世離れした感じはない。短く切りそろえられた髪も黒に近い焦げ茶で瞳の色も鳶色だ。まぁ日本人の中にいれば彫が深い分目立つだろうが元の世界で仮にユーリを見かけたとしても、まだ違和感は薄いだろう。
(まぁ、それにしたって女の人にモテそうな容姿なのは違いないけど…)
なんてことまで考えて、ふとミツキは己の思考にはたと気づく。いったい自分は何を考えているのかと。
(べっ、べつに、だからどうだってわけじゃないんだけど…!)
と、誰に対してなのかわからない言い訳を脳内で繰り広げていると、ユーリが「ん、」と何かをミツキに向かって差し出してきた。
「え、なんですか?」
「いやまぁ、労働の対価ってやつ?」
お前、予想以上に働いてくれたからさ、とユーリは笑う。
なんだろうかと差し出された物に視線を落とすと、ユーリの掌には赤い石のついた銀色の鍵がのっていた。
「鍵?ですか?」
どこの鍵?と首を傾げると、「そりゃこの屋敷のに決まってんだろ」とユーリは事も無げに言う。
いや、そうかもしれないけど……それってどういうこと?という顔をしたミツキに、ユーリはもうひとつの鍵をミツキの目の前にぶら下げて見せる。
「この家の鍵はふたつあるんだ。だから、ひとつをお前にやるよ」
「えっ、……いやいやいやいや、貰えないですよ!そんなの!」
慌てて首を横に振ると、ユーリは予想外のリアクションだったのか、「なんでだ?」という顔をした。
「別に悪い話じゃないだろう。やるって言ってるんだから、貰っておけばいい」
「いやだって、この家すっごく立派じゃないですか…!」
そうなのだ、最初は荒れ放題だった為よくわからなかったが、よくよく見ればこのお屋敷、かなり立派な建物なのだ。
部屋数も多けりゃ庭も広い。内装もよく見ればかなり趣味が良さそうである。




