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(身体って、労働力ってことね…!)
一瞬でも邪なことを考えた自分をぶん殴ってやりたい、とミツキは項垂れる。
そもそも見るからに女に不自由してなさそうな目の前の男が、自分のようなただ細いだけの色気のない子供を相手にするはずがないのだ。
(あぁ、自己嫌悪…)
ブチブチと雑草を毟り取りながらミツキは深いため息を吐く。と、それを目敏く発見したユーリから「サボんなよー」との檄が飛ぶ。ミツキは額に浮かぶ汗を拭いながら「わかってますって!」と半ばやけくそ気味に声を荒げた。ほんとにもう、どうしてくれようこの気持ち。
ユーリの言うところの身体でのご奉仕とは、なんと街外れにある空き家での清掃及び庭の草むしりであった。
「……随分くたびれた屋敷ですね」
「もう十年以上空き家だったらしいからな。家ってのは人が住まないとあっという間に朽ちていっちまう」
ユーリはそう言うと、外れかけた玄関の扉を修理しはじめる。その様子をしばしぽかんと眺めていると、ユーリが屋敷の庭────と言っていいのか最早わからない、荒れ放題の雑草の群れを指差しこう言ったのだ。
「じゃ、アレよろしく」
(…………えっ、)
えっ、である。が、時既に遅し。こんなところまでのこのこついて来て、命の恩人のお願いを断れるほどミツキは世渡りが上手くない。
結局ミツキは純粋な労働力として日が暮れるまで鬱蒼と生い茂る雑草と格闘し続け、それからなんと五日もの間、その空き家に通い続けるハメに陥ったのであった。
(やばい…!こんなことしてる場合じゃない…!!)
六日目の朝、ミツキはすっかり行きなれてしまった道をひとり歩きながら心の中で己にツッコミを入れる。
(何馬鹿正直にこき使われてるの、私!!そりゃ命の恩人だし、出来る限り役に立ちたいとは本気で思ってたけど…!)
けれど、こうも毎日毎日呼び出されては、自分の時間も確保できない。
(せっかく銃も鍛えて属性攻撃出来るようになったのに、ろくにレベルあげにも行けてないし!!)
正直なところ、モンスターを相手にするよりよっぽど疲れるのだ。件の雑草抜きは。
元々肉体労働とは縁遠かったミツキである。いくら健康な体が手に入ったとはいえ、慣れない作業は気力も体力もガシガシに削られていく。
結局日が暮れる頃には疲労困憊、カストールに行く気力もなく宿屋に直帰する日々である。
(当初の目的を見失いつつある……私はコインを稼がなきゃいけないのに)
競売までそれほど時間があるわけでもないのだ。ユーリには悪いが、せめて一日の半分くらいはギルドの仕事をこなしたい。
…ここで一日の半分、とか言っちゃうあたりが付け込まれる所以なのだが、生憎世間知らずのミツキにその自覚はない。
そしてその日もまんまと一日中、ミツキは屋敷の雑草駆除に精を出すハメになるのであった。




