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結論から言うと、ミツキといちばん相性が良いのは水属性だった。
(言われてみれば、最初から水魔法がスキル欄にあったもんなぁ)
そりゃそうか、という感想である。だが次点が聖属性で、その次が雷であるという。
逆に闇属性、火属性に関してはまったく素養がないとのことだった。後はまぁそこそこ、といったところらしい。
「こっちとしては水属性をすすめるが、聖属性をつけてもそれなりに使えるようにはなるだろう」
とのことだったので、迷わず聖属性を付加してもらった。さすがに銃を出した時には「これに?」という顔をされたが笑顔でスルーをかましておいた。こうした対応を見るまでもなく、銃攻撃が珍しいのは既に体感済みである。
ついでに武器レベルも3まで上げておいた。まだまだコインには余裕があったが、競売のことを考えるとあまり使いすぎるのも気が引ける。
(麻痺対策の装備も必要だしね)
その足で防具屋へと向かい、ちょっと値が張ったが麻痺無効の指輪を購入したところで陽が落ちてきた。久しぶりにダリヤに会いに行きたいと思っていたが、陽が暮れてからのカストールに足を運ぶのを、きっと彼女は良しとしないだろう。
(と、なると、会えるのは明日の昼かなぁ)
正直なところ、明日の朝一番で、またダンジョンに向かって街を出たいところではあったが、ヴェルナーの疲労の件もある。あまり無理をさせ過ぎてもよくないだろう。
短時間で何度も状態異常にかかると、疲労が通常の倍になるのだそうだ。そう教えてくれたのは防具屋のおじさんで、麻痺無効のアクセサリを買う時にそう説明してくれた。どうやらミツキのことを冒険者初心者と思ったらしい(まったくその通りだけど)。
状態異常防止のアクセサリにも色々あって、麻痺に限って言えばいちばん安いのは麻痺耐性、その次が麻痺無効、その次が麻痺反射となる。
手っ取り早いのは全てひっくるめて状態異常無効、もしくは反射のアクセサリなのだが、そんなものは当然高額のコインが必要となるわけで、今のミツキに手が出せるレベルではない。
稀に宝箱や高位の魔物からドロップすることもあるようだが、それも今は関係のない話である。
(ヴェルナーにアクセサリを装備出来ないのが痛いところだけど…)
あれだけの攻撃を受けたせいか、一応スキル欄には麻痺耐性なるものが追加されていた。まだまだレベルが低い為どの程度の効果があるかはわからないが、まぁないよりはマシだろう。
(……とりあえず、今日のところは宿に戻ろうかな)
カストールに行きたい気持ちをぐっと堪えて、ミツキは宿に向かって歩き出す。
なんだか無性に、人恋しい気分であった。
「久しぶりだねぇ、ちょっと日に焼けたんじゃないかい?」
店に入るなり、ダリヤはそう言ってミツキを歓迎してくれた。そのままいつもの定位置へとミツキを案内すると、「いつものでいいね」と彼女は厨房へと戻っていく。
(なんていうか、ホッとするなぁ)
その後姿を見送りながら、ミツキはそんな感想を抱く。ダリヤとの付き合いなど、ほんの短いものである。それなのに、こうして顔を合わせるととても安堵する自分がいることに、ミツキは改めて気づかされた。
(やっぱり、ちょっと弱気になっていたのかも)
いくら装備を整え、気構えを作ったところで、一度死にかけたという事実は消えはしない。
以前の世界でいくら死が身近にあったとはいえ、病魔に蝕まれるのとモンスターに襲われるのでは抱く恐怖が全然違う。




