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(あー、しまった。DEATHなんて冒険者なりたての小娘が出くわしていいモンスターじゃなかったか…)
ロルフには奥まで潜ったわけではないと言ったが、そもそもミツキにはサラヘナ湖の全体像がわかっていない。
なので実際はあの時点で自分がいた場所が、ロルフにとっては“奥”なのかもしれなかった。こればっかりは主観の問題なので擦り合わせが難しいところだが、普通に考えればロルフの意見の方が世間の常識であることは間違いない。
(まぁでも、私的にはまだ先がありそうな気がしたし)
嘘を吐いているわけではない。という認識のもとにミツキは会話を続けることにした。勿論、極力言葉には気を付けることを前提に、だが。
「宝箱だと思って開けたら中からモンスターが出てくるのって、よくあることなんですか?」
ミツキは微妙に話題をそらそうと、ロルフにそんな質問を投げかける。すると人の好いロルフは自分の疑問はさておいて、とりあえずミツキの問いかけに答えてくれる。
「そうだな、まぁよく聞く話ではある。よく見りゃ違いがあるらしいが、見分けるには相応のスキルや経験が必要だって話だ」
だからちょっとでも怪しいと思ったら開けない方が身の為だ、とロルフは続ける。
「スキルかぁ」
そう言われて、ミツキは思い返す。戦闘中鑑定スキルはオートのままだったはずだ。その為宝箱を開けようとしたあの時も、一応鑑定スキルは発動していたことになる。
(なんで気づかなかったんだろう)
単純にスキルレベルが足りなかったのだろうか、とミツキは首を傾げる。それとも何らかの情報は提示されていたが、自分が見落としていただけなのだろうか。
(うーん、注意力散漫だったことは否めないしなぁ)
とにかくあの時は疲労がピークに達していたし、戦闘にストレスも感じていた。
あり得ない話ではないなぁ、とミツキは自戒する。これでは折角の鑑定スキルも宝の持ち腐れである。
そんなことを考えていると、「でも、」とロルフはこんな話をしてくれた。
「DEATHが出てくる宝箱があるなら、コイン稼ぎにはもってこいだな」
「えっ?DEATHって倒せるんですか?」
思わず反射的に身を乗り出すと、ロルフは一瞬驚いたように身をのけ反らせる。そしてじりじりとミツキから距離を取りつつも、こう教えてくれたのだった。
「弱点をつければ倒すことは可能らしいぜ。ただ属性攻撃は必須だから、それを持ってなきゃ話にならんが」
「属性攻撃って、武器とかに付加出来たりするんですか?」
重ねてそう問いかけるミツキに、ロルフは何故か顔を赤くしながらも頷いて見せる。
「金さえ積んで鍛冶屋に行けば誰でも出来るさ。ただ相性もあるから、自分の性質に合った属性でなけりゃ威力としては半減だけどな」
「そうなんですね…」
あのDEATHを倒せるんだ、そう考えていたのが顔に出ていたのだろう、ロルフは「ただ、」と険しい顔で注意を付け足す。
「今のミツキのレベルじゃいくら属性攻撃が使えるようになったからって倒せる敵じゃないぞ。確かにDEATHを倒せば百万コインはくだらない。だから上級レベルの冒険者たちからすればいい金蔓だが、本来なら倒せるようなレベルのモンスターじゃないんだからな」
間違っても変な気は起こすなよ、と最後にロルフはそう言って、ギルドを出て行った。
だが生憎、ミツキの頭の中は(百万コイン…!)で、一杯となっていた。




