5
「うーん…」
ミツキはとりあえず移動してきた草原の草むらに腰を下ろして、目の前の獣の瞳をじっと見つめる。
おとなしい。初対面が噓だったかのように非常におとなしくおすわりしている目の前の獣に、ミツキは再びうーんと唸り声をあげる。
(どう見ても…生きてる、よね?)
近づけば獣特有の息遣いが聞こえるし、僅かにしっぽが左右に揺れている様子も見える。
狼のよう、と最初は思ったけれど、こうしてみると犬のようにも見える。大型犬…シベリアンハスキーをもっと狼っぽく、ワイルドにしたような感じだろうか。
そう感じてしまうのも、目の前の獣が非常におとなしく、かつミツキに対して従順なせいである。
ミツキが移動すれば後をついてくるし、止まれと言えば足を止める。攻撃的な様子は微塵もないし、なんだったら可愛くさえ見えてくる始末である。
「さっきは、確かに息をしてなかったのに…」
出血はしていなかった。けれど、確かに、心臓は止まっていたはずだ。
(復活の魔法って言ってたよね…)
魔法、そんな非現実的なものが、実際に存在するのだろうか。
(異世界だから、なんでもアリってこと?)
そう考えてしまうのは容易い。けれど実際のところ、魔法を使うには何かの条件が必要なはずだ。
でなければおかしい。どうおかしいのかと、説明しろと言われても困るのだけれど。
「もしかして、この花と何か関係があるのかな…」
ミツキは足元に群生している草花に視線を落とす。
ミツキがしたことで特別なことと言えば、ここに咲いている花をつかって花冠を作ったことくらいである。
それを獣の死骸の上にかけた。思い当たることと言えば、それくらいのことでしかない。
「そんなことで死者が復活するなんて、あまり信じたくないような…」
とは思うものの、これ以上この件に関して考えたところで発展性はなさそうである。
仕方がないのでミツキは違う方向から考えることにした。そう、とりあえず重要なのは、目の前のこの獣とどう接していくべきか、である。
「えっと…とりあえず、名前、かな」
獣、獣、と呼ぶのはどうも座りが悪い。呼びかけるにもまずは名前が必要だろう。
「ねえ、名前とかある?」
なんて聞いてみたところで、答えが返ってくるわけもない。我ながら痛いことをしてしまった…とちょっと気落ちしていると、その瞬間、唐突に半透明のウインドウのようなものが空中に現れた。
「ふぇっ」
あまりに驚いて、変な声が出てしまった。けれどよくよく見ると、そこには見慣れた文字がずらっと並んでいる。驚いたことにそれは───日本語のように、ミツキには見えた。
(なにこの、ステータス画面みたいのっ)
それを見た瞬間、反射的にミツキはそう思った。けれど実際よくよく見てみれば、それはまんまRPGなどでよく見かけるステータス一覧のようであった。
半信半疑のまま、ミツキは空中に浮かんだ文字をじっと読み込む。どうやらこの獣の種類はホワイトファングというらしい。
「えっと…」
ミツキはそのままそこに書かれた情報を読んでいく。そこには以下こう記されていた。
=============================================================================
魔獣属:獣魔種
ホワイトファング LV7 名前 なし 性別 ♂
HP:220/220
MP:90/90
物理攻撃力:200
物理防御力:350
魔法攻撃力:100
魔法防御力:90
素早さ:300
器用さ:20
運:20
魅力:20
所持スキル
噛みつき LV4
毒攻撃 LV1
毒耐性 LV1
火炎魔法 LV1
食料調達LV3
スキルポイント:100 現在のステータス:従属
=============================================================================




