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ダンジョン攻略と言っても、ミツキ程度のランクの冒険者にその依頼は回ってこない。
だが落とし物捜索などの依頼を受けることによって、低ランクの冒険者でもダンジョンに入ることは出来る。当然その冒険者は実力不足によってダンジョンの奥へは進めない。そも、落とし物自体がダンジョンの入り口付近であるが故の依頼なのだから。
(けど、別に奥に進んじゃいけないって決まりがあるわけじゃないもんね)
ダンジョン攻略の依頼は受けられずとも、奥へと進むことは出来る。それは自己責任の範疇だ。当然奥へと進めば進むほど出くわすモンスターも強力になり、落とすアイテムやコインも希少で高額なものになっていく。
幸いミツキには鑑定スキルがあって、モンスターのレベルが見えている。自分のレベルより高位のモンスターとの戦闘を避けることもある程度可能なのだ。
(……それに、そろそろ街周辺のモンスターじゃ、レベルが上がらなくなってきたところだし)
自身のレベルアップにもちょうどいい頃合いかもしれない、とミツキは思う。そうと決まれば装備の強化と依頼の吟味である。
(銃をより性能の良いものに買い替えようと思っていたけど)
正直なところ、あまりその必要性をミツキは感じなくなっていた。
(品揃えは豊富なんだけどなぁ)
攻撃力、射程範囲共に、似たり寄ったりな印象が強い。これなら今装備している銃で充分な気がしてきた。
ミツキはカーティスの武器屋で、そんなことを考える。高いコインを支払って銃を新調するより、今装備している銃で熟練度を上げた方が良いのではないだろうか。
「……やっぱり、弓矢を下さい」
結局ミツキは弓矢を購入し、通常弾と麻痺弾も追加購入しておいた。矢自体は後でアイテム生成スキルで量産することにした。
(さて、次はギルドか…)
昨日見た限りでは、現時点での落とし物捜索の依頼は2つ。サラヘナ湖とユグナ山、カーティスからの距離は5日と7日となっていた。
(近い方から攻めた方がいいかなぁ)
となるとサラヘナ湖だろうか、とミツキは思案する。落とし物は形見のウサギの人形、だそうだ。
ちなみに依頼は一度に複数受けることも可能だった。ただこの手の依頼には期限がついている為、あまり欲をかいてはいけない気がする。
(サラヘナ湖ってのが、どの程度の大きさなのかがまずわからないしねぇ)
正直、ユグナ山の方の依頼も捨てがたいが、今回はサラヘナ湖のみを受けておくことにした。
往復で十日、湖の規模にもよるが、二週間程度は帰ってこれないことになる。
(一度、宿を出た方がいいかな)
なんだかんだでカーティスには半月ほど滞在していた。それなりに顔見知りも出来たし離れるのは少し寂しい気もするが、冒険者なんてそんなものだろう。一か所にとどまりたいのなら、どこかに雇ってもらうかそれこそ自分で店を出すしかない。
(道のりは険しいなぁ)
いつか何処かの街に、定住することは出来るのだろうか。
(出来るか、じゃない。するんだ)
今からこんな弱気でどうする、とミツキは己を奮い立たせる。
ミツキの目標はあくまでこの世界に馴染んで、自分の力で、生きて行くことなのだから。




