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ミドリニア樹海の奥に棲むとされる戦闘民族の名を、カムイと呼ぶのだそうだ。
彼らは成人まで村を出ることはなく、極めて閉鎖的な環境で育ち、成人を迎えると同時に外の世界へと出ていくのだそうだ。
彼らの戦闘力は非常に高く、持って生まれた能力値も極めて優秀な為、傭兵として重宝されることが多い。一方でその能力値の高さゆえに未成年者の誘拐が深刻な問題となっている。
誘拐されたカムイの子供は高値で取引され、奴隷市場に出されることも多く、それ故カムイの一族は外敵から身を守る為樹海の一部に結界を張っているとされている。
(……それでもこうして、競売にかけられるカムイの子供がいるのか…)
まぁ子供と言っても彼は17歳で、ミツキとそれほど歳も違わないのだけれど。
(個々の能力値も高くて閉鎖的な民族、おまけに結界まであるのにどうやって誘拐しているんだろう)
ロルフに聞いてもいいものか、とミツキは思い悩む。ロルフもさすがにそこまでは説明してくれなかった。
(でも、奴隷商人なんだもんね……実際手を下してないにせよ、誘拐を容認しているんだろうし…)
良い人だとは思うけれど、やっぱり釈然としない部分は残る。そういう職業なのだと言われてしまえばそれまでだけれど。
(ま、競売に参加しようとしてる私が、とやかく言える立場じゃないのはわかる)
自分だって目的の為に金銭で奴隷を買おうとしているのだ。彼の方からしてみれば、ロルフも自分もそう大差ないだろう。
(とりあえず、おおよその必要額は聞けた)
現在のミツキの所持コインは220000である。色々買い物もしたけれど、コンスタントにギルドの依頼をこなしたり、モンスターを倒しているせいもあってかマティスを出た後より大分増えていた。
ちなみに競売への参加費用は10000コインで、通常はそれプラス色を付けるのが通例なのだそうだ。そうすることによって、参加者は目当ての奴隷の相場や競争率を奴隷商人から教えてもらえるらしい。
そしてロルフが教えてくれた目当ての彼の相場は、どうやら400000コイン前後ということだった。
(あと、170000コインか…)
競売まではまだ数か月ある。その間に、効率の良いコイン稼ぎの仕方を考えなくてはならない。
(うーん…、今までみたいに街の周辺のモンスターを倒したり薬草採取だけじゃ、ちょっと弱いかなぁ…)
塵も積もればなんとやら、地道に毎日続ければなんとかなるのかもしれない。が、やはり効率が悪すぎる。
(それに、万が一値がつり上がった場合、もっとたくさんのコインが必要になるだろうし)
コインはあればあるほどいい。となると、もっと確実に多くのコインを入手できる方法を考えるのが建設的である。
(と、なるとやっぱり…)
ダンジョン攻略だろうか、とミツキはギルドの張り紙を見上げながら、そう結論付けた。




