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(全体的に、あんまりレベルが…)
高くないなぁ、と思ってしまうのは、自分が世間知らずだからなのだろうか。
並ぶ奴隷たちと資料を見比べながら、うーん、とミツキは考え込んでしまう。これなら正直、純粋な戦力としては邪魔にしかならないレベルである。
道中出会ったシグリットのレベルが59だったこともあり、ハードルが上がっていたのかもしれない。
(まさか軒並みレベル20未満とは…)
いちばん高いレベルの奴隷でも資料を見ると22どまりである。今のミツキとヴェルナーのレベルは共にそれを上回っているからして、食指が動かないのも道理である。
マティスからの移動を含め、ヴェルナーはレベル+7、ミツキは+9上昇していた。なのでレベルは24と29になっている。
パーティーのリーダーには多く経験値が入るようになっているのと、従属契約のおかげか、ミツキのレベルはとんとん拍子に上がっていた。が、レベル25を超えたあたりから体感としては大分上り難くなっているような気がしていた。そこがある種のボーダーなのかもしれない。
(それにしたってもう少し……)
期待しすぎた自分が浅はかだったのだろうか。ミツキは資料をめくりながら渋い顔をつくる。
(そう言えば、街道に出た盗賊だってレベル10未満だったしなぁ)
そこかしこに現れるモンスターのレベルも、10を超えるものは現れなかった。それらを鑑みると、目の前に並ぶ奴隷たちのレベルは確かに高い。
けれど、高額のコインを支払ってまで手に入れたいと思うようなステータスでは決してなかったりする。
(スキルもなぁ、イマイチ魅力を感じないんだよね…)
物理攻撃に特化しているだけあって、スキル欄には突撃やら体当たりやら突進系がやたらと多い。中には握り潰し、なんてのもあったが、いったい何を握りつぶすつもりなのか考えたくもない。
(とはいえ、魔法系のスキルを持った奴隷競売は、さらに先だしなぁ…)
近日中に行われる競売は容姿に特化したもので、ミツキが参加する予定の競売はさらにその二か月後先の物理攻撃に特化した奴隷のものである。
正直なところ、スキルとしては魔法系の方が欲しい。けれど魔法攻撃に特化した奴隷は他の2つより相場がはるかに高いのと、時期が悪いというのがネックであった。
(スキル重視ならあと四か月は待たなきゃいけないし…)
その上、見た目を重視するというならやはり物理系の方が圧倒的に体格がいいらしいのだ。
生まれ持ったステータスというのは、やはり成長にも多少影響するようで、全員が全員ではないが、大概に於いて物理に強い人間は大柄な男に多く、魔法に強い人間は小柄な女性が多いのだそうだ。
なので見た目重視の強面を求めるのなら、やはり物理系の奴隷を選ぶのが最適、ということになる。
(もういっそ、ステータスやスキルは度外視で、見た目だけで選んでしまおうか)
レベルが低かろうが、情報さえ聞き出せて、矢面に立ってくれればそれでいいのだ。
そう割り切って考えようとしたところで、ふと目の前の奴隷に違和感を覚えた。
(ん?なんだろ、この感じ)
ミツキは資料と目の前の奴隷とを見比べてみる。
(別に、変わったところはない、よねぇ…)
資料に載っているステータスと、鑑定スキルで見ているステータスに、間違いは一切ない。
レベルは12と、今回の競売参加奴隷の中でも下から数えた方が早いくらいである。所持スキルも凡庸で、特筆すべきことと言えばミドリニア樹海の奥に棲む戦闘民族、という部分くらいだろうか。
(戦闘民族…のわりには、中途半端なステータスだなぁ)
そう思いながら、もう一度目の前に立つ奴隷のステータス画面をじっと見つめる。
すると、やはりわずかに、違和感が生じた。そしてそれと同時に既視感を覚える。
(これって…)
もしかして、とミツキは思う。これは幻視スキルの影響なのではないだろうか。