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競売に参加する人間は、事前に奴隷たちを下見することが出来るのだそうだ。
そこでは専用の鑑定士が在中し、競売にかけられる奴隷たちのステータスやスキルが開示されているらしい。
勿論そこに不正はない。従属契約を結べば主は奴隷のステータスを自由に閲覧することが出来るのだから、嘘など吐いても無意味なのだ。
競売は二か月に一度、用途によってそれぞれ分けられていて、その分類は大きく分けて三つ。物理攻撃に特化した奴隷、魔法攻撃に特化した奴隷、最後に容姿が優れている奴隷となる。
先の二つは言わずもがな、冒険者がパーティーの戦力の底上げを狙って欲しがったり、有力者たちが自身の警護にと求めたり、単純な労働力と見做されることも少なくないという。
三つ目の場合の多くはメイドや執事としての雇い入れとなるらしい。彼ら、彼女らには特別なスキルはなく、ただ単純に容姿やそれに付随した何らかの好まれる特徴を持っているのだそうだ。
その用途は────あまり、深く考えたくはないのだけれど。
(いずれにせよ、競売に参加するなら事前に欲しい奴隷の目星をつけておく必要があるってことか)
ミツキはロルフに教えてもらったその場所に、地図を頼りに向かっていた。ヴェルナーを連れていくかどうか迷ったが、ロルフに会う時はいつもなんとなくヴェルナーをお留守番させていたので今回もそうすることにした。
ロルフの計らいで、人の少ない時間帯を教えてもらっていた為、今の時刻はなんと早朝である。本来ならまだ宿屋のベッドの中で微睡んでいる最中である。正直なところ眠くて仕方がないのだが、あまり他の参加者たちと顔を合わせたくなかったので仕方がない。
眠い目を擦りながら、ミツキは何とか地図の場所を見つけ出し、そうして中へ入って驚愕した。
(まるで牢獄…)
映画で見たような鉄格子の中に、屈強な男たちが並んで立っていた。中には座り込んでいる者もいたが、ミツキが中に入った瞬間、億劫そうに立ち上がる。客の前ではそうする決まりなのだと、それは後になってから知ったことだけれど。
「いらっしゃいませ」
唐突に声をかけられ、ミツキはびくりと背を震わせる。恐る恐る背後を確認すると、老齢の男がミツキに向かって頭を下げていた。
「今回の競売の鑑定士を務めさせていただくビガスと申します」
ビガスと名乗った男は慇懃な態度でミツキに紙の束を渡してきた。視線を落とすとそこには奴隷たちの顔写真と共にステータスの数値とスキルの有無が書かれていた。
「今の時間帯は他に人もいらっしゃいませんので、ごゆっくりどうぞ」
「……はい、ありがとうございます」
ミツキは複雑な面持ちでそれを受け取り、ビガスが背を向けると同時に自分も鑑定スキルをオンにした。疑うわけではないけれど、念の為ということで。
(幻視スキルの方はいつでもオートにしてるんだけど、鑑定の方まではね…)
最近になって気づいたのだが、この二つを同時に使っているとやたらとお腹が空くのである。そしてそのまま使い続けていると段々体が重たくなり、動けなくなってしまうのだ。
(MPやHPが減らない代わりに、何か別のものが減っている気がするんだよね)
それが何なのかは今のところわからない。今後鑑定スキルを上げていけば、わかる日もくるだろうか。




