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(軍関係者かぁ)
そう言えば、カーティスに入る時、門番さんもそんなことを言っていた気がする。
(軍って…なんだか物騒な響きだよね)
出来ればあんまり関わりたくないなぁ、とミツキは思う。
(軍関係には魔獣や魔鳥の類がわんさといるって、そう言ってた気がするけれど)
それは従属契約ではなく、あくまで忠誠の儀を受けた獣、ということでいいのだろうか。
(最近は魔獣と従属関係を築く人は少ないって、シグリットも言ってたよね)
人と獣ではやはり扱いも違うのだろう。けれど、どちらにせよ戦力として見做していることに変わりはない。
(でもまぁ、今の私が言っても説得力ないよねぇ)
結局のところ、自分も奴隷を買おうとしているのだ。どんな理由があろうと買われる側には関係のない話だろう。
「お金のことに関しては…そんなに問題視してないんです。正直、そんな強そうな奴隷を買う気もなくて」
「そうなのか?」
ミツキの台詞にロルフは不思議そうな顔をしてみせる。
「パーティーの主戦力になってもらうんじゃないのか」
「それは、そうなんですけど…」
正直なところ、見た目さえ強そうに見えるならそれでいいと、ミツキは考えていた。
能力的に多少見劣りしようと、外見が大事なのだと、そう口に出してしまいそうになって、慌ててミツキは口を噤む。
(いけない、余計なことを言ったら怪しまれてしまう)
ロルフのことは良い人だと思っている。こうして話も聞いてくれるし、競売に紛れ込ませてくれる約束もしてくれた。
けれどなんでもかんでも打ち明けていいとは思っていない。まさか自分とヴェルナーだけで戦力は充分間に合ってますと言うわけにもいかないのだ。
(奴隷を買うのは、あくまで情報収集とパーティーのリーダーをやってもらう為)
自分に充分な知名度と常識が備わったその時は、奴隷を解放しようとミツキは考えていた。
そんなことが可能なのかはわからないが、その奴隷のいいように出来たらと、そう思っていたのだ。
「ほどほどでいいんです。だから、そんな値が高騰するような奴隷には手を出さないと思います」
「そうなのか?まぁ……その辺のことは好きにすりゃぁいいさ。俺の口出しすることじゃねぇしな」
ロルフは何か言いたげではあったが、そう話を纏めた。どうやらこれから仕事があるらしい。
「あまり時間が取れなくてすまないな。詳しい話はまた後日改めてでいいか?」
「勿論です。しばらくはこの街にいる予定なので」
「何かあればダリヤの奴に伝えとく。じゃぁな────えーと…」
「ミツキでいいです」
そう言うと、ロルフは少し言い難そうに、そして僅か照れくさそうに、ミツキの名を呼んだのだった。




