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「あ、あった!」
足跡をたどったおかげで、ミツキは無事に獣の死骸を見つけることが出来た。
いかに死骸とはいえ、こうして間近でみるとやはり恐ろしい。動物園にもろくに行ったことのないミツキにとって、生きている動物、それも猛獣の類を見ることなんてそうある経験ではない。
それでも、申し訳ないという気分になる。反撃しなければあのまま自分が嚙み殺されていただろうことは容易に想像がつく。けれど、だからと言って命あるものの死をこのまま見過ごすことも出来なかった。
ミツキにとって生きるということは、特別な意味を持つからだ。
「少しでも、弔いになれば…」
ミツキは獣の死骸の上に、先ほど作った花冠をそっとのせる。
白と薄い青、紫の小花で作ったそれは、獣の白と灰色の毛並みに不思議と映えた。
無意識のうちに両手を合わせ、目を閉じる。成仏してください、と念じるのも何か違う気がして、ミツキはごめんなさいと、ちいさくつぶやく。
───その時、ミツキが心の内で何を考えていたかは、正直なところよくわからない。
本人でさえ、今となっては説明できないだろう。そのくらい、その時のことは茫洋としていてよくわからないのだ。だが、しかし───
「えっ…」
突然、目の前が閃光に包まれた。それは目を閉じていてもわかるほど、強烈な───光の集積。
何事かと目を開ける。すると目の前の地面に倒れ伏していたはずの獣の死骸が、ゆっくりと上昇しているではないか。
「えっ、えっ、」
信じられないものを見た!とミツキは目を見張る。けれどそんなミツキのことなどお構いなしに、それはどんどん上昇していく。まばゆいほどの光に包まれながら───
(なにこれ、なにが起こってるの?)
もしかして、この世界では死んだらこうやって天に昇っていくのだろうか?
なんて非常識なことを考えていたその時だった。どこからともなく“声”が聞こえてきた。
それは脳内に直接響くような、気味の悪い無機質な“音”だった。
だからはじめは何を言われているかわからなかった。けれど幾度か繰り返されるうちに、ミツキはその声が何を言っているのかを理解する。
“復活の魔法に成功しました。蘇生させますか?それとも従属させますか?”
「じゅ、従属…?」
思わず、ミツキは復唱していた。復活はわかる。蘇生も、まぁわかる。
だが従属とはなんだ。
(え、えっと……力のある人の下に付き従うこと…だっけ?)
言葉の意味はそんなところだろう。だがこの場合はどうだ。
従属させますか?と聞かれている。それって、つまり、どういうことになるのだろう?
なんてことをぐちゃぐちゃと考えている間に、頭の中に再び声が響いた。
それは何度聞いても耳をふさぎたくなるような、生理的嫌悪をもよおす音だった。
“従属でよろしいですね”
「えっ」
ちょっと待って、と口を開きかけたその瞬間、ミツキの頭三つ分ほど上空に持ち上がっていた獣の死骸がぱっとその姿を変えた。
否────変えた、というより、それは最早死骸ではなくなっていた。
「うそ、でしょ…」
パチン、という破裂音とともに、ミツキが作った花冠が千切れる。
と、同時に目の前には元通りの姿の───生きた獣の姿が、そこにあった。