66
「久しぶりだな、元気そうで何よりだ」
ロルフは店内に入るなり、ミツキを見つけてそう破顔した。
実際ロルフと別れてから一月以上が経っている。正直忘れられていてもおかしくないと思っていたミツキだったが、ダリヤの話だとすぐにミツキのことを思い出してくれたらしい。
(そんな奴知らないって言われることも、充分想定してたんだけど)
こうして笑顔で再会を喜んでくれている様子のロルフを前にして、ミツキはホッと胸を撫で下ろす。
「あれからどうしたか気になってたんだ。その様子じゃ無事冒険者になれたようだな」
「おかげさまで。まだまだ駆け出しですけど」
「最初はみんなそうさ。無理せず自分の出来ることから始めていけばいい」
ロルフはそう言うと、ダリヤを呼んで飲み物を注文した。そしてダリヤが厨房の方へと消えたのを確認してから「それで、競売に出たいって?」と声を潜めて聞いてきた。
「はい。この先冒険者としてやっていくのに、必要だと思ったんです」
「奴隷をパーティーに入れるってのは、まぁよくある手段だ。ただ、それには結構な金が必要になる。そもそも戦闘要員に成り得る奴隷ってのは額が他と桁違いだ」
それを解った上で言っているのか?と聞かれ、ミツキは静かに頷く。大体の予想はついていた。
ただおおよその金額を知ることと、競売に紛れ込む為の手段が問題だったのだ。
そう告げると、「金策のアテはあるのか?」とロルフは続ける。ミツキは頷きつつ「詳しくは話せませんが」とちょっと言葉を濁す。
「それじゃぁ、ダメですか?」
そう尋ねると、ロルフは「いや、」と苦笑いを浮かべて見せた。
「金の出どころを気にしてたら、こんな商売やってられんさ。それにキミの場合、例のスキルがあるからな」
俺なんかには想像もつかない方法で金儲けができるって言われても、まぁ信じるよとロルフは続ける。
ロルフの反応に、ミツキはちょっと安堵して笑顔を見せる。するとダリヤが飲み物を持ってテーブルへと近づいてきた。
「ミツキは追加注文、いいの?」
「あ、じゃぁ同じのをお願いします」
「了解」
優し気な笑みを浮かべて背中を向けるダリヤを見送って、「そう言えば、」とロルフは今更ながらに「名前、聞いてなかったよな」と苦笑する。
「ミツキというのか」
「はい、その節は名乗りもせずアドバイスを貰うだけ貰って…」
「やめてくれ、助けてもらったのはこっちの方なんだ」
あの時も言ったが、キミは命の恩人だからな、とロルフは続ける。
「だから、まぁ他ならぬキミの頼みならなんとかしよう。競売に参加できるよう手は尽くす」
「本当ですかっ!?」
「ただ、金に関しては期待してくれるなよ」
参加費用はともかく、当日の競りは生モノだ、とロルフは渋い顔をする。
「俺にもいったいいくら金額がつり上がるか予想できない。おおよその見当をつけることは可能だが、それも絶対じゃぁない。特に戦闘系の能力に特化した競売の場合、軍関係者や金持ち連中が多く紛れ込んでやがる」
あいつらは目当ての奴隷を落とすまで、徹底的にやる、とロルフは言った。




