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だがそれではどれだけ粘ったところで、ミツキが競売に参加できる日は来ないだろう。
(……いや待てよ、冒険者として有名になれば…)
むしろあちらの方からすり寄ってくるのではないか、とミツキは思い当たる。
(でもそんなの、長期戦過ぎるか)
自身の考えをすぐに却下し、ミツキは頭を振る。ここは素直に助けを求めてみるのが正解かもしれない。
「えっと…夜に改めて来た方がいいですか?」
そう聞いてみると、お姉さんは「そうねぇ」と少し考え込む素振りを見せる。
「それがいいわ、と言いたいところだけど…」
「多少の危険は承知しています。それに、まったくツテがないってわけでもないんです」
「あら?そうなの?」
ミツキはお姉さんに、「ロルフという名の奴隷商人を知っていますか?」と聞いてみる。
するとお姉さんは意外そうに目を瞬かせた。
「予想外の名前を聞いた気がするわ。あなた、ロルフの知り合い?」
「ご存じなんですか?」
「言ったでしょ、この店はその手の輩の巣窟なのよ」
お姉さんはそう言うと、悪戯っ子のように笑った。
「ロルフなら、近日中にこの街に戻ってくると思うわ。いつも競売の前後にはこの店で管を巻いているから」
「本当ですかっ!?」
思わず大きな声をあげてしまったミツキに、一瞬店内の視線が集まる。それを察してか、お姉さんは周囲の視線から遮るように、ミツキの前に移動する。
「本当よ。でもそうね、何時訪れるかまでは私もわからないわ。昼間は滅多に来ることはないから、会えるとしたら夜の時間帯でしょうけど…」
「では、今日から毎日通います!」
勢い勇んでそう言うと、お姉さんは少し困ったような顔でミツキを見る。
「それはやめておいた方がいいわ。あなた、とっても可愛いから」
「えっ…」
可愛くないですよ、とミツキは咄嗟に反論する。すると、おかしそうにお姉さんは破顔した。
「否定するのそこなんだ?……でもそうね、やっぱり夜にこの店に来るのはすすめられないわ」
代わりに昼間に来て頂戴、とお姉さんはミツキを見下ろしにっこりと笑う。
「ロルフが現れたら、きっとあなたに報せるようにするわ」
「いいんですか?」
こんな都合の良い話があっていいのだろうか、疑うわけじゃないけれど、あまりに自分にとって都合の良い展開過ぎて、ミツキは「あのう…」と恐る恐るお姉さんに問いかける。
「すごく有難いんですが……どうしてそんなに良くしてくれるんですか?」
私なんて、今会ったばかりの他人なのに、と続けると、お姉さんは着ていたメイド服っぽいワンピースの襟元を、少しだけはだけさせた。
(あっ…)
ちらりと見えたうなじの先に見えたそれがいったい何を意味していたのか、その時のミツキにはよくわからなかったのだけれど
「だってあなた、私の〝これ“を見ても、普通に接してくれたじゃない?」
そう言って自身の狐耳を指差したお姉さんの顔は、少し寂し気で、けれどとても綺麗だった。




