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(競売?)
反射的に聞き返しそうになって、ミツキはぐっとそれを堪える。
(いくらなんでも、まったく何も知らないっていうのはまずい気がする)
お姉さんは明らかにこちらが知っている前提で話しかけてきてくれている。ミツキが何も知らないとわかったら、これ以上この話を続けられなくなってしまう可能性が高い。
「競売…って、あの、奴隷の…?」
なので、ミツキは思い切って鎌をかけてみることにした。多くは知らないけれど、まったく何もわからないわけではない、といった体を装うことにしたのだ。
するとお姉さんは案の定、声を潜めて続く言葉を口にしてくれた。
「そうよ、今回は女奴隷、それも非戦闘員中心の競売だからあの手の下種な連中が各地から集まってきちゃって」
おかげでウチの店の売り上げは伸びる一方だけど、胸糞悪いったらないわね、とお姉さんは眉間に皺を寄せる。
(美人はどんな顔をしても美人なんだなぁ…)
などと一瞬どうでもいいことが脳裏を過ったミツキだったが、すぐに我に返って質問をぶつけてみる。
「前回はどんな感じだったのでしょうか」
「先々月の時は確か魔法攻撃に特化した奴隷競売だったわね。魔法スキル持ちの奴隷は数が少ないし貴重だから、金持ち連中がこぞってお忍びで参加してたわ」
お姉さんはそう言うと、ミツキの右腕に視線を落とした。
「あなたも競売に興味が?でも生憎今回はまともな冒険者向きじゃぁないわね」
「まともな…」
ちらり、と店内にいる冒険者風の男たちに視線を向ける。あれがお姉さんの言うところの〝まともじゃない下種な連中“、ということになるのだろうか。
「興味はあります。でも正直、あまり詳しくなくて」
正直にそう言うと、「だからこの店に来たの?」と確信を突く一言をもらった。素直に頷くと「なるほどねぇ」とお姉さんはにやりと口角を上げる。
「確かにこの店には競売関係者や参加者が多く訪れるわ。この街の何処よりもね」
奴隷競売は二か月に一度行われるこの街の恒例行事よ、とお姉さんは続ける。
「参加者は参加費用を奴隷商人に支払って、競売への参加の権利を得ることになっているわ」
「じゃぁ、参加費用さえ払えば、私でも競売に参加出来るんですか?」
「表向きはね」
お姉さんはそう言うと、「競売への参加は抽選なのよ」とそう付け足した。
「抽選?」
「参加費用を払っても、抽選に当たらなければ競売に参加することは出来ないわ」
「それって…」
言葉を詰まらせたミツキに、お姉さんは妖艶に笑ってみせる。
「察しがいいのね。頭の良い子は好きよ」
(コネがないと、いつまで経っても参加できないってことか)
ミツキは考え込む。確かに関係者からすればより多くお金を落とす人間を参加させた方が利益も上がるし場も盛り上がる。




