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「いらっしゃーい……あら?」
新顔ね、とウェイトレス風のお姉さんがミツキを見るなりそう言った。このお姉さんの頭には狐耳がついている。
(この街の店員さんは、みんな獣耳必須なわけ?)
と思いつつ、あんまりじろじろ見るのも失礼なので、ミツキはお姉さんの目を見て控えめに笑う。
「はい、あの、席空いてますか?」
見れば空いているのはわかる。が、敢えてそう聞いてみた。もしかしたら一見さんお断り、なんてこともあるかもしれないと思ったからだ。
「空いてるわよ、どこでも好きな席に座って頂戴」
お姉さんはそう言うと、妖艶に笑った。妙にドキドキしてしまって、ミツキは思わず挙動不審になる。
(物凄い色っぽいお姉さんだ…!)
ミツキの人生の中で、間違いなく初対面の人種である。
どぎまぎしつつも、ミツキは店内をよく見渡せそうな席を選んで座る。するとすぐにメニューを持って先ほどのお姉さんが接客しにきてくれた。
「ご注文は?」
「えっと……何か軽食を」
さきほど食べたばかりだというのに、またしてもお腹が空き始めていた。最近妙にお腹が空くペースが早い気がするのは気のせいだろうか。
「お任せでいいの?」
「はい、それとこの子にも何か食べれそうなものを」
ミツキの足元に蹲るヴェルナーを一見して、お姉さんは「かしこまりました」と去っていく。
ウェーブのかかった長い前髪に隠れて左目はよく見えなかったが、お姉さんの右目は綺麗な翡翠色だった。
(綺麗な人だなぁ……それにスタイルも抜群だし)
何回生まれ変われば、自分もあんな美人になれるだろうか。
などとしょうもないことを考えている間に、お姉さんが料理を運んできてくれた。
ペッパーハムと野菜のたっぷり入ったトーストサンドとオレンジジュースがテーブルに置かれ、「飲み物はサービスね」とウインクされる。
「あ、ありがとうございます…」
何故か赤面してしまったミツキであった。
トーストサンドを食べながら、ミツキは改めて店内を見回す。
全体的に薄暗く、昼だというのに活気は皆無である。けれど客が全くいないというわけでもない。
店の隅に陣取るように、屈強そうな男が数人座っている。見たところ冒険者といったところだろうか。
それとは対極の位置に甲冑姿の男たちの姿もある。街に入る時に見た門番の人たちと同じような格好だった。
どちらも何か話している様子で、聞き耳を立てればなんとか会話を聞き取ることが出来そうなレベルである。迷った末に、ミツキは冒険者風の男たちの会話に耳をそばたてることにした。
「────が、そろそろ始まるらしい」
「マジかよ、今回の目玉はなんだ?────があるといいんだが」
「お前も好きだな、────は高いぞ」
「その為の────だろ、女奴隷は多いに越したこたぁない。だって────だろ?」
「違いねぇな、だが────目的で安い買い物をするなよ」
「わかってるさ、第一────」
「────だな、わかってるならいいが」
(今、女奴隷って言った?)
いきなりビンゴである。会話の所々は聞き取れなかったが、単語としてははっきりと聞き取れた。
(もうちょっと、近くで話を聞けたらいいんだけど)
どうにかして少しでも男たちの傍に行けないものかと考えていると、知らぬ間に先ほどのお姉さんがミツキのすぐ後ろに立っていた。
「嫌よね、ああいう連中」
お姉さんはミツキにだけ聞こえるような声音で、嫌悪感丸出しといった表情で吐き捨てる。
「次の競売が近づいてきてるせいかあの手の連中が最近増えちゃって。下品極まりないわよね」




