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「嬢ちゃんは見たところ冒険者だな。この街へは何をしに?」
一応決まりなんでな、と中年らしき門番はミツキに名前と訪れた理由を尋ねてきた。
「えっと…名前はミツキで、カーティスには…」
一瞬ロルフの顔が浮かんだけれど、とりあえず口に出すのはやめておいた。奴隷商の男を探している、なんて、ちょっと聞こえが悪い気がする。
「カーティスには、この子の冒険者登録をしに」
そう答えてヴェルナーの頭を撫でると、「へえ、」と不思議そうな顔をされた。
「冒険者登録ならどこでも出来るだろうに、どうしてわざわざカーティスに?」
「ついでに武器を新調したくて。それにはやっぱり、大きな街の方がいいかなって」
嘘は吐いていない。カーティスの武器屋には元々行くつもりだったのだ。
ミツキの返答に、「まぁ、そりゃそうだな」と門番のおじさんは一応納得してくれたらしい。そもそもあまり警戒されている様子もない。本当に形式的なやり取りだったようだ。
最後に滞在予定を聞かれ、「未定です」と答えておく。ロルフを探すのにどれだけかかるかわからない以上、断定的なことは言えない。
「そうかい、じゃぁ宿ならアナグマってところにするといい。あそこは長期滞在者向けの宿で飯もそこそこ上手いからな。場所は街の人間に聞けばすぐにわかるはずだ」
「ありがとうございます」
ミツキは笑顔でお礼を口にし、門番のふたりに頭を下げる。すると若い門番の方は手を振って送り出してくれた。
(甲冑姿だから無駄に身構えちゃったけど、ふたりとも良い人だったな)
ふたりに背を向け、ミツキはそんなことを思いながら街の中へと歩き出す。些細なことでも人に優しくされると心がほっこりする。人との関わりに飢えている証拠かもしれない。
街の中は煉瓦や石畳の道が続いていて、通りには色とりどりの野菜や果物、アクセサリーや雑貨の露店が並んでいた。
通りを歩く人たちの格好は様々で、冒険者風の格好をしている人もいれば、普通の可愛らしいワンピースを着た少女や、ローブを身に纏った魔法使い風の男など、多種多様であった。
中にはミツキのように動物を連れている人もいたのだが、ヴェルナーのようにそこそこ大きい魔獣はやはり人目を引くようで、すれ違う度にぎょっとした顔をされた。が、皆すぐに喉元の印を見て納得したような表情をする。
(うーん、シグリットさまさまか…)
ちょっと複雑な気分になりつつも、ミツキはシグリットに少しだけ感謝の気持ちを抱く。ここまで上手くいくとは正直思っていなかった。
(何らかの思惑があってのことなんだろうけど)
結果からみれば、シグリットはミツキの為になることをしてくれたことになる。シグリットのくれたペンダントがなければ、こうも楽にヴェルナーと街を歩けなかったろう。
もしまた会えたなら、その時はお礼くらいは言ってもいいかもしれない。
そんな甘いことを考えながら通りを進んで行くと、やがて大通りにさしかかった。
「あ、冒険者ギルド発見」
通りのいちばん目立つところにギルドを見つけて、ミツキは早速行ってみることにした。まずは何はなくとも、ヴェルナーの冒険者登録である。
(…なんか、拍子抜け)
ヴェルナーの冒険者登録はびっくりするほどあっさりと終わった。
パーティーの登録も無事に終え、晴れてミツキとヴェルナーは冒険者仲間となった。
(こんなにあっさりしてると、逆に不安になるような…)
とは思わないでもなかったが、結果としてミツキの思い通りに事は成ったのだ。ミツキは気分を切り替えるように次の目的地へと歩き始める。
「えっと、武器屋は東で、防具屋は西…」
そして、道具屋はギルドの裏手にあるらしい。
その他にもカーティスは大都市らしく、他の街や村にはない施設も多くあるらしい。ギルドでざっと説明は受けたものの、まずは自分の足で歩いて確かめて下さいと受付のお姉さんに言われてしまった。
「街の中を回るだけで、3日くらいはかかりそうだよ…」
そもそも武器屋と防具屋が街の端と端にあるのはどうしてなのか。不便極まりないではないか。
「ショートカット機能が欲しい…」
などと弱音を吐きつつ、ミツキはとりあえず今夜の宿を探すことにした。正直なところ、ちょっと小腹が空きはじめていたのだ。




