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早朝、ミツキはこっそりと宿を抜け出し、早々にマティスを後にした。
本当はもう一度弾薬の補充をしに武器屋に行きたかったのだが、仕方がない。ミツキは何かに追われるように、早足で街の外へと脱出した。
少し行った先でヴェルナーと合流し、悩んだ末にその首元に件のペンダントを下げてみる。
(ん?……なんだろ、これ)
すると、シグリットに言われたように、ヴェルナーの喉元に何かの印のような模様が浮かび上がって見えた。と、同時に違和感にも襲われる。
(確かに何かの印のように見える……、だけど、なんとなく、変な感じがするような…)
はっきりと何がおかしい、とは説明できない。ただなんとなく違和感がある、としか言いようのない感覚に、ミツキはやはり、と確信する。
(これはやっぱりスキルの影響だ。幻視スキル…それか、もっと強力な何かのスキルによって、錯覚させられているんだ)
ミツキがそれに気づいたのは、シグリットの説明があったからなのかもしれないし、もしかしたら自身が幻視スキルを保有しているせいなのかもしれない。
(もしくは鑑定スキルが影響しているとか…?)
今の時点ではっきりとは断言できない。けれど、ヴェルナーの首元にペンダントなんてものは見当たらないし、代わりにそこにあるのは血のように赤い不思議な形の模様でしかない。
「これが、忠誠の証ってやつか…」
確かに、はっきりと肉眼で確認出来る。これならよっぽどのことがない限り、誰に見られても疑われることはないのかもしれない。
(そもそも鑑定スキルは取っちゃいけないみたいだし、幻視スキルも持っている人自体少ないような口ぶりだったし、)
幸いミツキには鑑定スキルで相手のレベルがある程度把握出来る。シグリットのようにレベルが明らかに高い人間を避けていけば、どうにかやり過ごすことは可能かもしれない。
「あの人からの提案を受け入れるのは癪だけど…」
利用できるものは割り切って利用した方が得なこともある。弱みを握られた形であることは確かだが、ミツキにとってはまず目先の冒険者生活の安定の方が大事だった。
「ヴェルナー、これ、何があっても外さないでね」
念の為、ヴェルナーにもそう伝えておく。首にかけられたものが何であるか、ヴェルナーの認識を聞いてみたいところだが、そこは腐っても魔獣である。意思の疎通には限界があった。
ついでに鑑定でヴェルナーを見てみると、またレベルが上がっていた。知らないところでどれだけレベリングをしているのだろう…と思わないでもなかったが、例によって自身のレベルも上がっていることに気が付いた。だが今はマティスから少しでも遠ざかることが先決である。とりあえず上がった分のパラメーターは後で振り分けることにして、ミツキはヴェルナーを連れて再びカーティスへの道のりを歩き出すことにした。
マティスのギルドでざっくりとしたカーティスへの行き方は教えてもらっていた。
(本当は、地図とかがあるといいんだけどなぁ)
生憎冒険者登録の時に渡された茶色の紙には、自分が行った場所の記録しか出来ないようだった。書き込みも出来ないし、行ったことのない場所は白紙のままである。よって目的地への行き方に関しては別の地図が必要となるようだった。
ちなみに地図を入手するには大金が必要で、尚且つ運がよくなければならないらしい。というのもその街の周辺の地図というのは大体が道具屋で売られているのだが、いつでも置いてあるとは限らないらしい。所謂掘り出し物扱いで、仮に売っているのを見つけたところでかなりの額を請求されるのだそうだ。
(マティスの道具屋で最後に地図が売られているのを見たのは、一年ほど前だっていうし…)
ギルドのおじさん曰く、地図を手に入れるにはまずそこの道具屋の店主と懇意になる必要があるのだそうだ。そう聞いてしまうと、結局のところ足元を見られている気がしなくもないのだが、そのくらいこの世界では地図というものの価値が高いということが伺える。




