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(ああそうか。ギフトって……ギフテッドみたいなことか)
日本で言うところの英才児、優秀児。それがこの世界での価値観だとパラメーターがカンスト状態、ということになるのだろう。
(確かにあんな特殊な状態で生まれてきたら、特別扱いもされるよね…)
それにある意味では生き難いだろうな、とも思う。人と違った能力を与えられるということは、羨望の対象となる一方で差別の温床にも成り得る。それを鑑みれば早いうちに保護に乗り出したこの国の政策は理にかなっていると言ってもいい。
(ただ、そう上手くもいかないんだろうけど)
自分のステータスは自分にしか覗けない。故に、隠そうとすればいくらでも隠せてしまうのだろう。
(国が保護してくれるって言ったって、結局は国の為に能力を使うことを強制されるんだろうし……なら、皆が皆、名乗り出てくれるとは限らないよねぇ)
自分が幼い頃からこの世界の住人だったなら、わからない。けれど、今のこの状態でもし国に全てを差し出せと言われたなら、やはり躊躇してしまうだろう。
(こんな話を私にするってことは、やっぱり何か勘付かれたのかな)
ただミツキの場合、カンストしている数値がひとつではない。スキルにしてもそうだ。
この話しぶりから察するに、ひとつでもカンスト状態のパラメーターがあれば、それはもうとても貴重なことなのだろう。
(どうしよう……やっぱりしらを切り通すのが正解かな…)
話はまだ続いている。ミツキはその穏やかな語り口に耳を澄ませながら、自身の身の振り方を考える。
「それに都市部では情報が行き届いていますが、末端の地域にはまだまだ正しい情報が届けられていないのが現状です。現に貴女も御存じない様子でしたし」
「あ……すみません、ほんとに、何も知らない田舎者で…」
言い訳のように頭を下げる。すると「いいのです」とやんわりと頭を上げるようにすすめられる。
(口調はとっても優しいんだけど)
それゆえに申し訳なさが勝ってしまう。シグリットには感じなかった罪悪感が刺激され、ミツキは自然言葉数が少なくなる。
「彼らの能力は特別な物です。故に扱い方を間違えれば損失も大きい。国にとっても、個人にとってもそれは悲劇的なことです」
「…………」
言っていることはわかる。至極まっとうな意見だ。
けれどこれだけは聞いておかなければならない。恐らく、それは相手にとっても同じだろう。ミツキが口を開くのを、きっと彼らは待っているのだろうから。
「……どうして、その話を私に?」
恐る恐るそう問いかける。すると、声の主が微かに笑んだ気がした。
「私はギフトを受けた子供たちを探す旅をしています。その道中出会った人たちに、今と同じ話をして聞かせているのですよ」
「……はぁ」
「もし身の回りで心当たりの方がいれば、是非紹介して頂きたいのです。勿論それとは別に、アデルとフランシスを助けて頂いた礼をしたかったというのも本当のことです。彼らは優秀な兵士ですが、まだ若く何分実戦経験が乏しい。今回のことは良い勉強になったでしょう」
「あ、甲冑姿の…」
アデルとフランシス、そんな名前だったのかとミツキは改めて知る。そう言えば彼らは無事にこの街に着いたのだろうか。
意識がほんの僅か横滑りしたのを見越したかのように、背後からシグリットの声が聞こえてくる。
「主、そろそろ時間かと」
「そうですか、ならば仕方ない。残念ですが今日はこの辺で失礼させて頂きます」
「あ…」
それを最後に、声の主は部屋を出て行ってしまった。もう少し、詳しい話が聞きたかったと思う一方で、どこかホッとしている自分もいる。
(紹介して欲しいって言うわりには、やけにあっさりしてるようにも思えたけれど…)
どことなく、ちぐはぐな印象を覚えた。言ってることとやっていることが一致していないような、そんな違和感。




