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「さてと、早速銃の練習でもしようかな」
……とは思ったものの、防具屋を出たところで急激にお腹が空いてきた。宿屋には食事処が併設されていたので、朝ごはんはそこで取ることも出来たはずだが…。
(でも、ヴェルナーのことも心配だしなぁ)
一度街の外へ出て、そこで調合済みの食料を取りながらヴェルナーと合流した方がいいかもしれない、とミツキは思う。
レベル的に問題はないと思うが、万が一と言うこともある。やはり外に置いてきたヴェルナーのことが気がかりだった。
ミツキは周囲を見回して、シグリットやその部下がいないことを確認する。別に疚しいことがあるわけではないのだけれど、なんだか妙に警戒してしまう。
(よし、いないな)
ミツキはその足で街の外へ出ると、東の方向へと歩き出す。そうして街の門扉が見えなくなったところでヴェルナーの名前を呼んでみた。
「ヴェルナー!おーい!」
……我ながら原始的な方法である。が、数分も経たないうちにヴェルナーの姿が現れた。
さすが、ヴェルナーは出来る子である。
「ヴェルナー、半日ぶり!」
灰色がかった鬣を撫で倒しながら、ミツキはヴェルナーに抱きつく。うーん、やっぱり落ち着く。久しぶりのベッドは心地よくもあったけれど、ひとりで過ごす夜はどことなく味気ない。
(忠誠の証を得られれば、ヴェルナーとも一緒に宿屋で泊まれるんだよね…)
ふと、そんなことが脳裏を過る。次いで、シグリットの台詞が思い起こされた。
(忠誠に値しない、か…)
そもそも忠誠ってなんだよ、という話である。ミツキが欲しいのは、そんなたいそうな代物ではない。
ただ一緒に旅をして、共に日常を歩んでいきたいだけなのだ。
「それだけじゃ、ダメなのかな」
駄目なんだろうけど、つい愚痴をこぼしてしまう。ミツキ自身は冒険者にはなれたけれど、このままでは大きな街に入る度にヴェルナーとは別行動になってしまう。ダンジョン攻略やギルドからの依頼は手伝ってもらえるかもしれないが、それはあくまでミツキがパーティーを組まない前提の上での話である。仲間が出来た場合、ヴェルナーのことを上手く説明出来る自信は今のところミツキにはない。
「はー、困ったなぁ」
ヴェルナーを撫で撫でしながらため息を吐く。と、ヴェルナーが不思議そうな目をして見つめてくる。ああ、可愛い。そんな目で見つめられたら悩んでいるのが馬鹿らしくなるわ。
(……ま、とりあえず朝ごはんにしよ)
気分を切り替えるように、ミツキはヴェルナーに向かってにっこり笑って、アイテムからオムレツと木の実を取り出した。
今は何はなくとも、腹ごしらえである。
オムレツを食べながら、ミツキはヴェルナーのステータスとアイテムをチェックすることにした。
「うわ、めっちゃレベル上がってない…?」
別れた時と比べて、レベルが6も上がっているではないか。たった一晩のうちにいったい何があったというのだろう。
(でも、自分より高レベルの相手とは戦闘しないって約束だったし)
たまたま経験値がたくさん貰える敵と遭遇したのだろうか?
(こればっかりは、言葉が話せないと上手く聞き出せないんだよねぇ)
HPやMPを見ても、特に減っている様子はない。アイテムも減っているどころかむしろ増えている。
持ちきれなくなりそうなアイテムはこちらで引き取ることにして、ミツキはヴェルナーのステータスを強化していくことにした。
(ヴェルナーには防具とかつけられないからなぁ)
素早さが勝っていれば先制攻撃で倒してしまえるかもしれないが、敵が複数だった場合や魔法攻撃を受けた場合、ある程度のダメージはもらってしまう。
(過保護と言われようが、ここは魔法防御力に全振りだ!)
ミツキは迷うことなく+30を魔法防御力に突っ込んだ。